Busy-Body-Boy
















元々は柔らかなオレンジ色だったサンダーソニアが何とも哀れな姿で窓辺にいるものだから、リョーマもとっぷりと悲嘆に暮れた顔で背の高い彼女が植わる鉢植えを抱え上げた。
そして、そんなリョーマの後ろで居心地悪そうに突っ立っていた手塚をゆっくりと振り返った。振り返るリョーマの顔色は呆れと少しばかりのお怒りと。

ランプシェードの似姿をしたサンダーソニアは、リョーマが手塚に2週間前にプレゼントしたものだった。

「今度は何したの?」
「…水を、やっただけだ」

弁明する手塚は歯切れが悪い。
それもその筈。リョーマが手塚の部屋に持ってきた時には、今にも明りが灯りそうな風情だったランプシェード形の花弁は、今や皺だらけの上に既に茶褐色の域にまで変色を遂げ、すくすくと伸びていた葉達も、持っていた艶やかさを色褪せさせた上に酷く痩せている。
しかも、ここまでの無惨な姿にさせられた被害者は、サンダーソニアの彼女が初めてでは無い。
過去、2回、手塚には前科がある。しかもどれもが、リョーマからのプレゼントだったりするのだから、リョーマの愴然とした気持ちはもう華々しいくらいの呆れに差し掛かっていた。

「水、って、どれくらい?」

鉢植えを元の場所に置き、リョーマは尋ねる。
秋のこの時期、ベランダへと続くこの窓の脇にこの花を置いているのは正しい。それなのにきちんと育てられることはなかった。
リョーマが尋ねる語調は詰問に近かった。

「一日、ペットボトル1本くらいだ」
「…多いよ」
「今度は水をやり忘れないようにと思って……」
「前のは1週間も放置しとくから枯れたんだよ。…アンタさあ、やることが、極  端」

程度ってものがあるでしょう、と苛立ち気味に言って、溜息を零し、また嗄れた鉢植えに視線を落とす。確か、手渡し乍ら多湿に弱いらしいという、花屋からのアドバイスを伝えた筈だったのだけれど。

ああもう、と遣る瀬無い気持ちで声を漏らすリョーマを前に、釈然としない顔で手塚は短く謝った。子供が親に窘められているのを連想させるような、そんな顔。
手塚に、悪気は一切無かったのだ。前回貰った鉢植えは水をやるのをつい忘れていたらいつの間にか枯れていたので、その失敗を踏まえて今回は水を『ちゃんと』やっていたに過ぎない。
ただ、リョーマが言った様に、少々、程度が過ぎていたらしいけれど。

「…もう、アンタに花は買ってこない」

アイボリーの鉢植えの中で意図しない外力に依り、果てさせられてしまった”元”花を慰める様に一撫でしてから、ぽつりとリョーマは手塚に告げた。
告げられて、手塚も僅かばかり悄気た風を見せた。枯らせてしまったことに悪気は無かったが、後悔はあった。2度も枯らした自分に、それでもリョーマが三度目の正直と冗談めかしながらくれたものをわざとでは無いにしろ、駄目にしてしまったのだから、情緒は多少なり欠落していつつも物心はある手塚としては申し訳ない限り。
リョーマの決断を、詮無いこととして受け止めた。

「代わりに、今度来る時はサボテン買ってくる」

そして、アンタは何もしなくていい、とリョーマは続けた。
そんなリョーマの言葉を聞き、不思議そうに手塚は目を屡叩かせた。

「サボテンも水がいるだろう?」

学生時代に、それの愛好家だった不二から雑談の端に聞いたことがある。
手がかからない植物だから、とリョーマがその名を挙げたのだと思った手塚がより一層訝しんだ顔で尋ねると、あっさりとリョーマは肯定した。

「水やりは季節によって違うらしいから、アンタ、絶対それ覚えてられないでしょ?だから、水やりはオレが来た時にするから。アンタはただ鑑賞してればいいの」
「…しかし、それは………」

一人前に年齢を重ねた大人の癖に、何だか酷い体たらくぶりではないか、と手塚が抗議の声をあげれば、

「アンタの部屋に堂々と来られるいい口実になるでしょ?」

そう答えてリョーマはにこりと笑って、更に続けた。

「だから、いつでもオレが来られるように、合鍵ちょうだい」
「……それが狙いか」

それまで逡巡していた顔色は一瞬にして褪めて、下心を暴露した恋人を睨んだ。
合鍵を渡せば自らの身の危険が容易に推測できる。それを理由に、手塚はリョーマにこの部屋の合鍵は渡していなかった。逆に、リョーマの部屋の鍵は彼が部屋を決めたその瞬間に強奪したけれど。

自分がシたい時には容赦なく押し掛ける。自分がシたくない時に夜這われたくはない。
手塚のスタンスはそれだった。

無言乍らも、全身から拒否を唱える手塚に対してリョーマの笑顔は加速。

「来週には、買ってきてあげる」

手塚の部屋に次に手土産としてやってくる彼は、覇王樹の異名も持っていたりする。


















Busy-Body-Boy
手塚さんは几帳面そうですけどね。
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