Euphoria Search-party
















触れると葉を閉じ、枝の付け根から折れて、ぺこんと頭を下げられた。
植物の癖に、と感心していれば、急に降ってくる頭上からの声。

「接触性傾性運動、と云うらしいぞ」

声の主の顔を振仰がず、リョーマはただ「へぇ」とだけ漏らした。声が降りてきたタイミングは唐突だったけれど、そのまだ幼さが端にだけ辛うじて残っているテノールは顔を確かめずとも誰と判り過ぎた。
それから再び開き出した細かな葉にもう一度触れ、やっとくるりと振り返った。予想通り、待ち合わせの確約をした恋人の姿がそこにはあった。

「行こっか」

今日はこれからオタノシミ。













待ち合わせの公園で見た、花壇の端に咲いていたあの植物はひょっとしたらコレの動きと似ているのかもしれない。
触れれば閉じ、更に触れれば一層閉じてこちらを圧迫してくる様なんて特に。

自分の真上を覆う裸体の手塚が、顔をむず痒そうに顔を顰めるその様を見遣りつつ、リョーマはふとあの馬鹿丁寧に辞儀をしてきた植物を思い出していた。
意識を目の前の手塚とあの植物とに分けて飛ばすリョーマのその左手は、腹の上に浮かせられた手塚の双丘の奥の一点へ。臀髱を中指以外の指で押し広げつつ、窪みを穿鑿する要領で中指を裡へと捩じ込んでいく。
僅かずつ減り込んでくるその感覚に、時々思い出した様に手塚は顔を顰める。リョーマの頭の両脇に突いた腕を震わせる。背中が、跳ねる。
そしてまた時として、リョーマの胸の終わりに白濁した液が一滴ずつ落ちた。

既に小さな水溜まりめいたものを作り出しているそれを気にした素振りも無く、脇がそれを流れていくことにも、これといった留意を置かず、リョーマは差し入れた指に少し角度を付けた。

「ここ?」

尋ねる口調はただ単調に疑問を投げかける声。
幼児が初めて目にするものを前に、母親に不思議そうに尋ねるような、そんな邪気を一切孕まない声。

尋ねられた側の母親ならぬ手塚は、ただ小さく「ぁ」とか「う」とかしか呻くことが出来ず、リョーマの体を挟んで膝を突いている両脚を緊張させた。

イエスと答えてこない手塚に、違ったのだろうか、ここではなかったのだろうか、とリョーマはまた手塚の後口の中で指を蠢かせる。

「………ぁっ…!」

少し強引に指を更に奥へと進ませれば、それまでこちらに頭を垂らし深く瞼を瞑っていた手塚の顔が上方へと逃げる。弓なりに反った白い喉が綺麗だった。喉に釣られて攣った胸許も堪らなかった。ただでさえ薄い彼の躯の肉が伸ばされて更に薄くなる瞬間。
我知らず、リョーマは口内に溜まった唾液を嚥下する。

昼を下がり始めた静かな少年の部屋に、やけに咽喉が動く音が響いた。
曰く、ゴクリ、と。

「……ここ?」

今度は怖ず怖ずと。リョーマは顎裏だけが見える手塚にそう尋ねるが、肯定とも否定とも取れない、曖昧な響きだけを持つ吐息のみが頭上で零された。
けれど、触れる度、奥へと進めていく度、明らかに圧迫されてきている。
ふと左へと視線を流せば、そこに突いた手塚の右手が小刻みに震えていた。よくもこれだけ耐えながら躯を支えられるものだ。
全体的な肉付きは浅い人だから、無理をし始めている腕でもひょっとしたら大丈夫なのかもしれない。

手塚に答えを求める代わりに、リョーマはそう結論付けた。

「ん…………――ッ」

ふるり、とリョーマの頭上で手塚が首部を振る。無音な部屋では、そんな小さな動きでもきちんと後を付いて鳴る、細かな髪同士が擦れる音が聞こえた。

「もうちょい………どっち?」

上?左?右?
続け様にリョーマは問う。手塚が今、真上で瞼に朱を乗せているのと同じく、リョーマの頬も薄らと赤い。

「…うえ」

熱に浮かされ始めた剣呑な声で、手塚はそれだけをぽつりと零した。零した後は、リョーマの次の行動を予想してか、怯む様に柔らに胴をヘの字に曲げた。
それのせいで、少しだけ、リョーマの指が抜ける。自分の行動が起因だというのに、それに対して手塚はどこか不満そうな顔でリョーマを見下ろした。
逆光で顔のパーツが見え辛くなる中、双眸だけが非難めいてリョーマとかち合う。

享楽に耽ったり、不機嫌になったり、忙しい人だと、リョーマは口端を苦笑の形で歪めた。

「越前」

そんな自分の名前を呼ぶ彼の声の調子は更に不機嫌そうに。
早くしろ、と言外に急かしてきている事は明白。引き上げた腰をわざわざ指目がけて下ろしてこなくて結構だ。
それでもってまた短く甘い声をあげるのだからどうしようもない。

わかったよ、とせせら笑う様に、リョーマは先が入り込んだままの中指を半ば強引に押し入れた。入り口を丹念に解してやったのだから、これくらいの動きは痛くはないだろうという思いがある。

「ん…っ……………んぅ…」

リョーマの予想通りというか、何と言うか、手塚が落とした小声は苦痛から上げた呻きというよりは恍惚故に漏らした嬌声に近い。
満足そうな気配が語尾には山と漂っている。

「ここ……からもうちょい上なんだよね…?」

手首をもぞもぞと動かして、懸命にリョーマは目的の場所を探す。
行き着く場所全てで、ココ?ここ?と尋ねてみせるけれど、向かいの彼は圧迫してくるばかりで未だ決定的なことを口上に乗せない。

「今のオレの指じゃ届かない場所にある、なんていうオチはやめてよ?」
「ん…、もう、少し―――…」
「もう少し?」
「ひだ、り?」

己の事なのに、こちらへと尋ねてくるのは止してくれないだろうか。それとも、勝手気侭に探していいというのなら、もっと忙しなく内部を触らせて頂くというのに。
苦情の全てを苦笑に変えて、リョーマは手塚が示した通り、裡壁に沿って左へと動いてやる。
ここ?とまた尋ねた声は今度はどこか呆れた気配が忍んでいる。目をきつく閉じて何かに集中しているらしい赤面中の手塚は気付いていないだろうけれど。

「……そこ、だと思う……」
「そういう不確かな情報って、信じていいのかな?」

言いつつも、リョーマは辿り着いたそこを、くっと押さえた。途端に、堪えきれないとばかり、手塚の唇からは喘ぐやや甲高い声が噴出した。
同時に、量を増して胸に手塚の精液が零れ、跳ねた一滴がリョーマの鼻頭を掠めていった。



















Euphoria Search-party
幸福感捜索隊。
オジギソウを思い浮かべつつさあ読み返してみましょ。
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