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頭の形が丸い。

眼下で熟睡するリョーマの後頭部を撫で乍ら、手塚はその円みを確りと掌で認識した。
頭の円みは乳幼児のあの頃に決まる。
柔らかい皮膚と頭蓋骨。それらを持っているあの時分に、どう寝かせつけられるかで決まる。
仰向けに寝かせたり、寝返りが自力で打てない為に左右に時折転がしたりと、育児をする母親は中々に手を焼くと聞く。その時の己の采配次第で、我が子の頭の形が決まってしまうのだ。
思わずぞくりとしてしまう様な重責と使命感を感ぜずにはいられない。

「……」

リョーマの後頭部に手を宛てがったまま、手塚は何とは無しに己の後頭にも手を遣り、ふと母親の几帳面さを知った。
幸いと、触れたそこは絶壁にはなっていない。きちんと円みがあって、やけに安堵する気持ちを覚える。

来年の母の日は、少し、奮発しよう。

さすり、さすり、と手塚はまた暫く間を置いてから、リョーマの頭を撫で摩った。
あちらの母親もきっちりと務めを果たしたらしく、手塚の手に触れる後頭部はきちんとまあるい。
いつも、見かける殆どのその時間を、彼は真っ白な片鍔の帽子を被って、この形の良い頭をすっぽりと隠してしまっている。
其所は触れて尚解るくらいに、彼の長所と云っても良いのだから、勿体無いと手塚は思う。

頭皮の上で手を動かす度に指の間をすり抜けていく髪質も、柔らかで立派なものだ。
いつだったか、彼は、寝癖が付きにくいお陰で、寝坊した朝も時間が取られないから助かる、とも云っていた。
枕に頭では無く、顔を突っ伏してのこの寝姿では、仮令、髪質が強くとも大した寝癖は付きようがないだろうけれど。

「………………ム」

ふとした悪戯がその時、リョーマの頭を撫で続けていた手塚の脳裏を過った。
思わず、そちらに意識が奪われて手が止まる。

ひょんな悪戯は普段はリョーマの専売特許。何の瞬間に思い付いているのだか知らないけれど、あの手この手で数多の悪戯を仕掛けてくる。
思考が子供なのだと思う。自分の足で立ち上がり、行動範囲が広がると共に好奇心を覚え出すあの乳幼児の年代の思考。

後も先も考えず、ただその時を如何に楽しむか。
それが、現在の彼のスタンスだ。もう少し成長したら、どうなるか判らないが。

リョーマの髪束の中から手を引き抜き、手塚は立ち上がって辺りを物色した。
頭の中に描いた通りの悪戯用の小道具は生憎と、少年趣味のリョーマの部屋には無いけれど、代用品として打ってつけのものは、振り返った学習机の上に見つけた。

何本ものボールペンやサインペン、シャープペンシルなどの筆記具。それからセロハンテープ。

ペン立てごとそれらをリョーマが尚も寝穢く眠り続ける傍らへと運び、まずは太字用の油性ペンを取り出した。そして、それを芯にして側面にリョーマの髪を巻き、毛先をセロハンテープで強引に留めた。
そして、それをペン立ての中のものを総動員して続けた。
手塚がくるくるとリョーマの髪をそれぞれの筆記具に巻き付けている間中、リョーマは微動だにせず、全ての作業が終わった時ですら、暢気に規則的な寝息を立て続けていた。

すっかり、頭中に細長いものを巻き付けているリョーマを、さも一仕事終えたとばかりに手塚は爽快な顔で見下ろした。
かいてもいない額の汗を拭う仕草すらしてみせる。
後はこのまま、彼がいつも通りに寝返りを打たず、性分通りに寝穢く過ごせば万事は成功だ。

ベッドサイドからシーツの上へと頬杖を突いて、にこやかに手塚は寝顔のままであるリョーマの横顔を眺めた。
きっとここまでのしつこいカーリングならば如何な猫毛と謂えど、あちこちの方向へと撥ねるに違いない。しかもそれらは全て、くるんとまあるく可愛らしい円を描いて。

そうすれば、きっと今迄以上に厳重にあの帽子を被らざるを得ないだろう。
彼の頭の円みなど、自分以外は知らないままでいい。
こうして、彼の数多い長所をより一つでも多く知っているのは、この世で自分と、それからリョーマ自身だけでいい。

そんな、優越感。


















merit
メリット、長所。
越前の長所は星の数ぐらいはあるに違いない。
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