very very strawberry
















それは、日差しも麗らかな5月も初旬の春の日。
場所は、越前家、その一人息子の部屋にて。


部屋には主の越前リョーマ。
そして、机を挟んだ向こう側には、部屋の主の想い人、手塚国光。

そして、二人の間の机にはガラスの器に盛られた真っ赤な苺の群れ。

それは、何気ないいつもの自宅デートの一場面だった。

中学生な二人が自由に使える金銭は底が知れていたし、それ以上に二人とも喧噪激しい街中へデートを繰り出すのは好きとは言い難かったので、デートと言えばお互いのどちらかの家へ向かう事が定番となっていた。

今日も、いつものそれだったのだ。
手塚がリョーマの家に遊びに来た、ただそれだけだ。

しかし、いつものその場面がお互いの目の前に鎮座するこの苺達によって狂わされるとは、お互い知る由もなかったのである。





会話の合間に苺を摘む。

リョーマが母に手塚が遊びにくる事を昨日伝えたら、今日朝一番に買ってきた苺だ。
瑞々しそうに赤く光るその様は誰しもが手を伸ばしそうな旬の一品だ。
手塚が来るというだけでそれだけの品を買ってくるのだから、どうやらリョーマの母も手塚を気に入っているらしかった。
血は争えないと言うか何と言うか。


さて、話題は戻って、苺だ。

会話の合間に手塚が摘んだ苺。
それは、群れの中でもいっとう大きくよく熟れていて見るからに甘そうな見てくれの苺。
それが、いけなかった。


「………」

手塚がそれを摘んだ瞬間に、リョーマが険しい表情になった。
手塚が摘むその一瞬前まではにこやかに談笑していた筈なのに。

「?  どうした、越前」
「…その苺」
「苺?  これがどうかしたか?」

リョーマの剣呑な雰囲気は和らぐ事が無い。
寧ろ、手塚がいつもしているように眉間に皺まで刻んでより一層険悪な顔付きに変わっている。

「それ、オレが狙ってたのに…」
「は?」
「器に盛る前から狙ってたのに…」

よく見れば、険悪な目つきのままリョーマは手塚の指の先の苺を凝視している。
そして、時々恨めしそうな顔をして手塚をちらりと視線だけで見る。

「狙ってたからできるだけ端に乗せて、しかもそれがオレ側に来る様に皿を置いたのに…」

口惜しさからなのか、リョーマの肩が小刻みに震えている。
そんなリョーマを見て、手塚がフッと軽やかに笑った。

「なんだ、そんなに欲しかったならやるぞ。ホラ」

子供だな、とは内心だけで呟いてリョーマの前に摘んでいる指ごと苺を差し出してやる。
しかし、

「いい、いらない!!」

手塚が苺を差し出した途端、リョーマがふいっと視線を逸らした。

「なんだ、さっきまで欲しがってたくせに」
「いい!!なんか、アンタが余裕ぶって渡してくるのが腹立つからいらない!!」

完全に子供のわがままのソレでリョーマは臍を曲げていた。
それは中学生のわがまま、というよりは幼児のわがままと言った感じだ。

「ああ、そうか、じゃあ俺が頂こう。大きくて赤くて甘そうだ」
「ダメ!それはオレが食べるの!」
「どっちなんだ、お前は」

ほとほと呆れた様子で手塚が溜息を吐く。
その溜息を聞いてリョーマの眦がまたキッと吊り上がる。

「そういう小馬鹿にした態度がヤなの!!」
「ごちゃごちゃ五月蝿いガキは俺は嫌いだ」

お互い眉間に皺を寄せ、苺を間に視線の間に挟みながら睨合う。

「なにさ、自分だってまだ14のくせに妙に大人ぶっちゃって!」
「お前がガキなだけだろう。食うのか食わないのかどっちか早く決めろ」

睨合いは続く。
リョーマは顎を引いてギッと見上げ乍ら。
手塚は少し顎を上げて見下す様に。

そんな二人の間には手塚の指に摘まれた苺が所在無さげに揺れている。

「食べる!けど、いらない!」
「……――っ。  お前は…」

リョーマのどうしようもない我侭を受けて手塚の顳かみに青筋が走る。
しかし、リョーマはそんなことにはお構い無しに睨み続ける。
リョーマ自身にだって、これが不毛なわがままだという事は判っている。
判ってはいるが、負けず嫌いなリョーマの性格上、素直に折れることなどは到底できそうもなかった。

「もう、知らん!」
「あっ!」

言うが早いや手塚は自らの口に件の苺を放った。
それを見たリョーマから短い悲鳴が漏れる。

手塚は怒りの表情そのままに咀嚼し、そして喉を鳴らして飲み込んだ。
リョーマはその様を放心した様子で最後まで眺めるしかできなかった。

「〜〜〜〜っ。ひどいっ!サイテーだよアンタ!」

泣いて騒ぐが、手塚に飲み込まれた苺はもう帰って来ない。

「お前がいつまでもわがままばっかり言うからだ。自業自得だな」

手塚、余裕の表情でサラリと返す。

「んにゃろ……こうなりゃ…」

リョーマがガタンと勢い良く立ち上がると、二人の間の机に手を付き上背を伸ばして、手塚の唇を塞ぐ。

「……!  っ、越前、いきなり何をする!」

突然の事に激昂し、飛びついて来たリョーマの肩を力任せに押しやる。
勢いで二人の唇が離れる。

「何って、アンタの口の中に残った苺を味わっただけだけど。何?文句ある?」
「ある」

にやり、といつもの様に不敵に笑うリョーマに対し、手塚は毅然と一言だけを言い放つ。

「アンタに文句いう資格なんてないっ!オレの苺食べたんだから!!」

怒りの色を帯びさせたまま、自分の肩を押しやっていた手塚の手首を掴み、また唇を奪う。



手塚は最初こそ腕に力を込めて抵抗を試みるが、体の小さなリョーマのどこにそんな力があるのか、丸でびくともしない。
必死に振り解こうとする手塚の手首を握るリョーマの指先にも力が篭る。

そのまま、30秒経ち、1分経ち。
徐々に手塚も込めていた力も抜けて行き、背中もリョーマに圧されるように緩く反る。
そして、3分が経とうとした頃、リョーマが漸く手塚を解放した。



「苺、甘いね」

自分の唇を舌で舐め上げてリョーマが不敵に笑む。

「あれ?部長、どうしたの?顔真っ赤だよ」
「うるさい」

リョーマが声を立て乍ら笑って指摘すれば、手塚は自分の目元を隠す様に掌全体を使ってフレームレスの眼鏡を直す。
別にずれた様子はないから、只の照れ隠しなのだろう。
リョーマもそれが判っているから、悪戯っぽく笑う。

「ホントに真っ赤。さっきの苺みたいだよ?」




















鶉やの小倉みるくさん宛に献上させて頂いた品。
い、一応乙女を目指してみたんですよ〜(滝汗)
普段のうちのリョマなら間違いなく手塚が苺摘んだ時にその指毎舐め上げて食べたでしょうから!(笑
こんなのでも小倉さんの素敵サイトに飾って頂けてわたしゃ東国イチの果報者です☆

小倉みるくさんの素敵サイトはコチラ


その他トップへ。
別館トップへ