誤解
















恐らく、こういう場面でならば、長いな、と感嘆したりするのが普通のラブロマンスなのだろうけれど。
結構、普通の長さだな、と生徒会室の重厚な机上の書類と格闘している手塚の横顔を同じ机に頬をぺったりと寄せながら見上げて、彼の睫へと対し、リョーマはそんな感想を覚えた。
窓から差し込む西日に透けて、確かに綺麗ではあるし、不揃いでは無いのだけれど、嘆息が付いて出る程、長くは無い。

ひょっとしたら自分の方が長いかもしれない。

顔の些細なパーツをこうして眺める機会はあまり無いものだから、リョーマはそこばかりを凝視し続けた。
そんな、不躾なくらいにじろじろと眺め続けるリョーマの視線に、書類との戦いに一心地着いた手塚はやっと気が付いたらしい。リョーマに向かって、ふ、と切れ長なその目線が降ってくる。

リョーマは尚も上瞼に生え揃う手塚の睫を繁々と眺めていたものだから、微妙なところで視線は掠るだけで通じ合うことは無かった。
不可解そうに、手塚の眉が顰められる。それでもリョーマは手塚の睫を眺め続けた。

夜毎繰り返される、睦言の最中にふと見た時には、その睫に涙が室内の少ない光量を目一杯反射させて胸が思わずどくりと鳴った覚えがある筈なのだけれど、明るい日中でこうして眺めてみればそんなこともない。
尽く々く、夜ってものは魔物だなあ、と、リョーマはやっと嘆息を吐き、手塚の上瞼の辺りを凝視するのを止め、顔を上げた。

リョーマがそうやって顔を上げるのを待ち構えていたかの様に、手塚は顔を近付けて、ツン、と唇で唇を突いた。
思わず、唖然とするのはリョーマの方。そういった類の期待はまるでしていなかったし、第一、こちらは従順に手塚の指示通り、余計なちょっかいをせずに彼の業務が終わるのを待っていたというのに。
そういうことをしてもいいのなら、最初からそう言って欲しい。

きッ、と睨んだリョーマに、虚を突かれたのは今度は手塚の方。

「強請られていると思ったんだが?」
無言のままで見詰め続けてくるものだから。
てっきり、待たせている間、じりじりと我慢ならなくなっているのかと。手塚はそう思ったものだから、ちょいと構ってやった。実はただそれだけだった。
手塚なりの親切心でやってやったのに、それで睨まれるというのは解せない。

「…違うよ」

机に掌を突いて、リョーマは身を起こし、まだ机に向かって座ったままでいる手塚の眼鏡を奪い、瞼の際に唇をツイと寄せた。反射的に手塚は瞼を閉じ、そしてそこに口吻けられる感触を受け止める。
すぐにそれが離れていったおかげで、手塚はまたぱちりと目を開く。奪われた眼鏡もリョーマの手に拠ってすぐに掛け直された。

「睫毛が、案外フツーだな、って思って見てただけ」

年中、盛ってると思わないで、と机に頬杖を突いたリョーマは手塚の勘違いに不服そうだった。

















誤解
いっそ、手塚の睫毛は普通でいいんじゃないかなとか。だめすか。だめすね……。出直します

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