Only your place
















ふと繋いだ手を掲げ、裏、表を繁々と眺めた後、リョーマは繋いでいた手を自分から解いた。宙には、手塚の手だけが所在無げに浮かぶ。
その手塚の手の真ん中にある中指の先を摘み、もう一度手塚の手を眺めてからリョーマはにんまりと笑い、手塚の中指を左に傾けて人さし指との間に齧じり付いた。
何をいきなり仕出かすのかと、咄嗟に手塚は腕を振払い、リョーマを険しい顔で見下ろした。

「ここって、鍛えようがないよね?」

いくらアンタでも、とリョーマは続け、何が可笑しいのか、くすくすと忍び笑いの声をあげた。
指ならば皮が厚くなったり胼胝や肉刺が出来て、なんだかんだで確かに強くなっていくけれど、リョーマが言うように指の間なんて鍛えようが無い。
第一、鍛えようとも思わないし、鍛える必要が無い。
こんなところ、リョーマと手を繋ぐ時以外に使うこともまず無いのだから。

「それって、ここはいつまでもアンタの弱いとこ、ってことだよね?」
「…俺だけでは無いと思うが?」

目の前でまだ笑いの余韻を表情に残しているリョーマだとて、こんな場所はいつか強くなる様な場所じゃない。

「何が、そんなに楽しいんだ?」

思わず、手塚がそう尋ねれば、リョーマはまた目を細めて笑った。
そして、元は自分から放り出した手をまた重ねて、手塚の指と指の間に自分の指を差し込んで、真っ直ぐ目の前に広がる舗道を歩き出す。
歩く度に、ふらりふらりと繋いだ片手同士は前後に揺れる。

降り注ぐ陽光も見上げず、ただ髪にその眩しい光を通過させ乍ら歩くリョーマの隣をゆったりとした調子で手塚も歩いた。

「そんなアンタの弱いとこが生涯、オレのもんなんだな、って思ったら楽しくて」

だってそうでしょう?
手を繋いだままでリョーマは体毎くるりと振り返り、そのまま後ろ歩きに真っ直ぐ進む。
その歩調が危なっかしくて、手塚はリョーマの目よりも、スニーカーから少しだけ覗く黒いリョーマの靴下の辺りを見詰め乍ら話を聞いた。

「いきなり、押し倒されて、唇なりケツの穴なり犯されることがあっても、」
「…不穏だな」
「そういうことが長い人生の上でアンタなら何回かあってもおかしくないでしょ?オレが選ぶくらいの『いい』人、なんだから」

例え話だから大人しく聞いてて、とリョーマは苦笑して、繋いだ手を頭上に掲げた。
リョーマは垂直に上げて腕は真っ直ぐにピンと伸びてしまっているのに、手塚の肘は緩く曲がっている。そんな些細なところに今の彼が不意に気を留めてしまわないかと意識が削がれる。おかげで、口説いているのか、恋人相手に惚気ているのか、というリョーマの折角の台詞もあまり真面目に聞いていなかった。

リョーマは続ける。

「まあ、仮にそういうピンチがあったとしても、そこから手を繋がれる、とかっていうことはあんまりあり得ないでしょ?つまり、」

ぱちん、とリョーマは右目を眇めた後、頭上に持ち上げていた手を引き寄せて、自分の中指が埋もれている手塚の人さし指と中指の間に唇を落とした。

「ここだけはオレしか触らない場所、ってことじゃない?」
「………。まあ、裏返せば、」

リョーマの口元へと手繰り寄せられていた二人の右手と左手とを引き寄せ返して、手塚は自分の薬指が埋もれているリョーマの中指と薬指との間に唇を押し当てた。
目の前では引き寄せられて爪先立ちせざるを得ないリョーマがひとつ瞳を瞬かせる。

「お前のココは、俺だけの不可侵領域、というわけだな」
「まあ悔しいけど、」

そういうことなんじゃないスかね?

二人の片腕を眼下に引き下げて、リョーマは手塚の唇を無人の路傍で攫った。


















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