イノセントダーリン
















「いいじゃん」

剥き出しである手塚の膝に手をかけながらリョーマは云った。その額には焦りもあって汗が幾粒も。
ベッドに仰向けで転がる手塚が返すは、

「絶対、駄目、だ」

耳まで赤くした限界間際の紅潮っぷりで、頭上のシーツを握りひくひくと喉元を引き攣らせた。山型に立てられた膝を掴むリョーマの手に少しばかりの力が入ると共に、忌ま忌ましそうに彼は奥歯を噛み締めた。
また一粒、リョーマの額に汗が浮く。

「腰、浮かせてくれないと入るもんも入んないんスけど?」

体の造りが女では無いのだから。
ベッドに頭から尻までぺったりと寝かせた状態では、ここから先が進まない。
リョーマが言いたいのはそういうことだった。

なのに、手塚は頑なに了承しない。
先程から聳り立つ奥のものを必死に噛殺してはシーツに自らを戒めている。

「オレ、もう限界なんスけど……」
「お、俺だって限界極まりない」

お互いの言葉をより強く主張せんばかりに二人の股の間にあるものはぴりぴりと震えんばかりに聳り立つ。
手塚のそれをちらりと視線を移してみれば、リョーマの中にある苛立ちに似た思いは更に募る。

「だ・か・ら、限界なんだったら腰浮かせて下さいよ」
「ば、馬鹿言え、今迂闊に動けるか…っ!」

動いたら出る、と必死の形相でその後を続けた手塚に対して、リョーマは溜息のひとつでも落としてやりたい気持ちに駆られた。
何をこの場に至って…。言葉にするのならばそんな気持ちだ。
せり上がってきているものは、吐き出される為にそこまで上ってきたのだから、何を躊躇しているのかと。

「出しちゃえばいいじゃないッスか」
「こんなところで粗相が出来るか…っ」

手塚からしてみれば、背中に触れる感触はシーツであり、それが示すのはベッドの上、であり。手塚が認識しているベッドは寝具のひとつでしか無く、今、こうして裸で寝転がっているのすら違和感極まりないものだった。

生活空間の一環であるそんな場所で、いくら性的衝動だとは言え、飛沫を散らすことなど羞恥以外の何者でも無い。
今、この場へ辿り着く迄には雰囲気でそれとなく流されていた理性が下肢に集まる熱のせいで厄介なことに復活してしまっていた。

それ故に、痛む程に膨れ上がり肥大したものを堪える一方なものだから、手塚の体中では体温上昇を塞き止める一般的な汗の他に冷や汗や脂汗が交じった上で滴っている。

「粗相…って、それは違うでしょ。寝小便とかじゃないんだから」

リョーマはそう言って苦い顔をするのだけれど、手塚に言わせれば、殆どそのようなものだ。
ベッドの上、という場所条件も同じであれば、出す器官も同じなものだから。

もう口を開く余裕さえ無いのか、リョーマの声に手塚は返事もせず、ただ只管苦しそうにシーツを握り込んでは苦悶の表情を浮かべた。口からは快楽に喘ぐ嬌声とはまた異質な悶える声が小さく漏れる。

まるで分娩台で息む妊婦みたいだな、とリョーマはもう零れる溜息を抑えようがなかった。――妊婦は体内から対外へと子を生み出す為に息む訳だから、行為としては真逆なのだけれど。そして、リョーマは出産に立ち会ったこともないのだけれど。

「じゃあ、コンドームでも付ける?」
「…?」

赤面を通り越して赤黒さすら色味掛り始めた顔の間隙から手塚が不思議そうな色を覗かせて薄目でリョーマを見上げる。
視線の先にいたリョーマは汗を滴らせつつもどこか呆れた顔色をしている風だった。

「要は飛び散らなかったらいいんでしょ?」
「…ま、まあ、そういうことになるが……」
「じゃあゴムで受け止めれば飛び散らないじゃん」
「そ、そうだな……越前、頼む」

体のひとつでも動かせば破裂せんばかりの状況なものだから、そうやって相手に頼む外無く。
リョーマもそこのところは止むを得ないと心得ているのか、「ちょっと待っててね」そう言っては体を起こし、手塚に啄む程度の小さなキスを与えてやってから、日頃の隠し場所へとのろのろと向かった。
リョーマだとて手塚と似たり寄ったりな状況ではあるのだから、当然、歩くという普段ならば何でも無い動きひとつが綱を渡る様な剣呑なもの。部屋を歩くその姿はどこかぎこちないのも致し方ない。
今、この姿を誰かに見られればどう躱そうかリョーマと云えども頭を悩ませるところ。

そんなリョーマが恐々とベッドへ折り返してくれば、リョーマが離れて幾分か緊張が減ったらしい手塚が大人しく仰臥のままでいる。
その手塚が横たわるベッドの縁にこれまたゆっくりと腰掛け、やっとこれで先へ進める、と安堵の思いも織り交ぜ乍ら、屹々とした手塚の下肢にコンドームを填めようと手を触れれば、

「さ、触る、な…っ」

その文句の次には、「出る」と唯一言。
行き場に困った手は宙に浮かせたままにせざるを得なく。顔色は唖然とするしか無く。
自然と項垂れたリョーマの口元からはこれ以上ない程に大きな嘆息が零れ落ちる。そんなリョーマの背後では己の生理現象と尚も闘う手塚が苦悶の声を忍ばせていた。


















イノセントダーリン
打開策としてはティッシュに吸わせてしまうとか。
吸い取ったティッシュを思わず口に放り込む越前とか想像してしまうとアウトですか。

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