君の顔は好きだ
「すいません友達なんです」
そう言い募った手塚を、
「友達ィ?」
リョーマと手塚を呼び止めた巡回中の警察官は酷く胡散臭そうな顔で睨んだ。
二人が歩く夜道は暗い。
「俺はそんなに老けて見えるのか…?」
警官の説得を無事に終え、少し歩き出したところで手塚はぽつりとそう呟いては己の頬にひたりと触れた。
何を今更、と返そうとしたリョーマだったけれど、見上げた手塚がしたその仕草と憂顔を見留めてその言葉は喉の奥に引っ込めた。
手塚の憂いは一歩進む毎に濃くなっているようだった。
「あたかも、俺がお前に悪戯でもするんだろう、とでも言いたげだったぞ。あの警官」
「…気にすることないよ」
「河村の親父さんにも顧問だ何だと言われるし…」
「まだそんなこと気にしてたの?」
そんなアクシデントはもう半年も前の話だ。あの頃は夏も前のこと。翻って今は立冬も越えた。
二人が歩く夜道は暗い上に寒い。
「不意に思い出したんだ」
常に頭にある訳じゃない、とばかりに手塚は顔を顰めてみせた。どこか拗ねている様な顔にもその表情は見受けられる。
くすりとリョーマが忍び笑えばそれは薄白い蒸気の靄として口先から出た。
寒い冬は厄介だな、と思う。夏ならばこの程度の忍び笑い、気付かれずに過ごせるのに。
リョーマの鼻先で霧散した小さな笑いを手塚は見つけてしまったに違いなかった。
視線の先にある手塚の顔は拗ねることを越えて完全に不貞腐れてしまっている。
「どうせ傍から見れば27、8がいいとこだろうさ」
「気にすることない、って、言ってんの に 」
バカだねえ。年上ぶった調子でリョーマはそう苦笑い、隣り合っていた距離を縮めてぴたりと手塚に寄り添った。
歩きにくい、と肩を押しやられても知らん顔。
「大人っぽい、ってポジティブに考えてみたら?」
「お前には一生わからんさ。子供然としているお前には な」
「やぁだ。ひがみっぽい」
皮肉を言われてもリョーマは上機嫌そうにくつくつと喉を鳴らして笑った。
その笑い声と比例してぷいと顔を背ける手塚の横顔に、バカだなあ、とリョーマは内心で微笑ましく零す。
「子供っぽく見られたいんならもっと何とかしたら?」
「…別に、子供に見られたいわけでは………」
「じゃあ、27、8の扱いを受けても文句言わない」
ぴしゃりと言い放つリョーマの言葉は多少きついものでもあったのだろう。手塚はそれこそ、理不尽なことを我侭で押し通そうとする子供の様に増々不機嫌そうになった。
屁理屈を理論で押止められて、そこから先、何も返せないのも子供然りの態度。
こんな”子供らしい”子供は久方ぶりにお目にかかる。リョーマは肩を揺らして笑った。
「じゅーうぶん、子供だね、アンタは」
眼下からふわふわと立ち上る白い靄は笑い声の名残。それがちらちらと視界の端に映り込むことで手塚は更に押し黙った。
どうせ、今何を告げてもリョーマに上手く躱されるだけだ。
「みんな、見る目が無いんだよね、きっと。こんなに子供なのにさ」
そういうアンタもオレだけが知ってればいい?
試す様な口調だった。実際、試していたのだろう。いつも、手塚は甘い言葉にはおいそれと乗りはしないから。
15歳の少年として周囲が扱ってくれないのは、きっとそんな素直さの不足も一因なのだろう。
「気障め」
「オレばっかりが知っちゃって、世界はカワイソウだね。少しくらい分けてあげたい気分」
「……ふん」
調子に乗りやすいのはリョーマの長所でもあり短所でもある。手塚は常々そう考えている。
けれど、
「幸せそうで何よりだ」
彼の笑顔は嫌いでは無い。
冬の夜道は暗いし危険も多く、その上寒いのだけれど、その下でこっそりと繋いだ手は充分に暖かかった。
君の顔は好きだ
お互いにそう思っとけ可愛いアンチクショウ達め(何故に喧嘩腰)
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