アンダテブルの色欲魔人
このお話のお二人はもう中学生ではありません。
既にお二人住まい中です。
「白か……」
リョーマが買ってきたテーブルクロスを広げ乍ら手塚は呟いた。
特にこれと言った感歎を見せない様子の手塚に、「白じゃダメだった?」とクロスの端を向こう側で持ったリョーマが首を傾げた。
「汚れが目立つ」
ぽつりと小声ではあるけれど、言い躊躇う素振りが手塚には無い。リョーマに一任させた買い物だけに、あまり大声でクレームをつけるのは憚られたのだろう。けれどあまり気に入らない。そんな二つの感情が綯い交ぜになっているらしいのが、今の手塚だった。
けれど、そんな手塚の発言など、
「漂白剤で一網打尽」
全くの杞憂だとリョーマは笑みすら見せた。
お手軽な思考回路だなと心で思って、顔では苦笑をしてみせて。
何は兎も角、早速テーブルに掛けてみよう、とそれぞれの端をお互いに掴んで、テーブルの真上へぶわりと勢い良く持ち上げた。そしてそのまま一気に下降して白い布がテーブルを覆う。
けれど、足長なのに天板の面積は二人用で小さいその机では、リョーマが買ってきたクロスの方が随分と大きかったらしく、天板から垂れた布の端が今にも床へ着いてしまいそうだった。
ぐるりと一周を見渡して、手塚はふむと考えるような仕草をしてみせる。
「…長すぎるな。切るか」
「いやいやいやいやいや」
チチッ、と顔の前で人差し指を左右に振ってみせるのはリョーマ。顔を歪にさせずにウインクも付けてみる姿は、目にする度に器用にだなと手塚に何気ない感想を覚えさせる。
これが所謂、アメリカナイズだろうか、と考える手塚は少し頭のネジが緩いと言えよう。
「切っちゃダメ。こんくらいになるって予想した上で買ってきたんだから」
「この……危なっかしい長さが、か?」
間違いなく垂れた端を踏み付けていつか誰かがすっ転ぶだろうこの長さが。範疇の内なのだと。
何を根拠にそんなことを思い付いたのか、と直ぐに手塚が不思議がるのも詮無いこと。
そんなに長ったらしく、眩しいくらいの白い色をしたテーブルクロスを見かけるのは、精々結婚式の披露宴、若しくは披露宴と同等、それ以上の料理が並ぶ高級店くらい。それ以外にも勿論あるだろうけれど、手塚が反射的に思い付いたのはそれくらいで、一般の人間が使う食卓でこんな妙な丈のテーブルクロスに出会ったことなど無かった。
だから、きっと後日にこの家を訪れるであろう客人にも奇妙な気持ちを抱かせてしまうだろうと想像するには容易く。
「この長さは流石に変だ」
手塚がそう苦言を呈するのも仕様のないことだったと言える。
けれど、リョーマはそんな苦情を従順に受け止める気は更々無かったと見える。口の端が不敵に吊り上がったあの笑い方をしていた。
「変じゃないの。いいから、椅子座ってみて」
そう言われて、解せない気持ちを抱えつつ手塚は机を挟むようにして据えられた椅子のひとつに腰掛けた。
座面に腰を下ろす間際、懸念していた通りに爪先が床面ぎりぎりの白い裾を踏んだ。矢張り、この長さは変だとそのせいで更に思いは増してしまうし、床に近過ぎるその場所は埃等で汚れてしまうのではないかという別の懸念も手塚に抱かせた。
長さも色も、もう少し熟考すべきだっただろうに。
つい先頃踏み付けてしまったばかりのクロス端に険しい一瞥を加えれば、そこへリョーマが頭を突っ込み、そのままテーブルの下へと全身をすっぽりと潜り込ませる一部始終が見えた。
はてなと首を傾げるのは一瞬のこと。次の時には曲げた膝に手が添えられ、直ぐに内腿へと伸びた。
なにせ、大きなクロスに覆われたテーブルの下でのこと。リョーマの動作がまるで認識できない状況下、突如として触れられた感触に椅子の上で手塚は小さく跳ねた。
「え、越前…っ」
勢い良くクロスを捲り上げれば、手塚が履くジーンズのドットボタンに手をかけているリョーマの手が丁度見えたものだから、手塚は咄嗟に手首を掴んで”その先”を止めた。
もそもそとリョーマが机の下から手塚の下腹を這って出て来ては口先を尖らせる。
「なんで止めるの」
「何故も何もあるか、この……、馬鹿っ!」
リョーマが”そこ”から先、何をしようとしていたかは明白で。
当然の様に怒声を上げる手塚に対し、リョーマはまるで悪びれた様子は無い。
「だって、オレこれの為に買ってきたんだから」
「これ、の為だけに…?」
「これの為、だけに」
繰り返すことは強調を生む。
その上で、語調も強くしてリョーマは繰り返し、そして頭上でひらひらと揺れるクロスの端を引き寄せて匂いでも嗅ぐ様に鼻先へ当てた。
「目の届かないとこで触られるの、刺激的じゃない?」
そしてこの間出かけたフレンチレストランのテーブルクロスを見て思い付いたのだとリョーマは楽しそうに打ち明けた。
アンダテブルの色欲魔人
あー…意味伝わってるかなー伝わってるかなー、とわたしはすごく心配です。
戻る