my way
















「一人で平気?」

ベッドの上で気怠げにブランケットと戯れ乍らリョーマは手塚の背中へと声を投げる。

「平気だ」

室内でただ一人衣服を纏う手塚が返す声は確りしたものだったけれど、ドアへと向かう足下はどうにも覚束無い。
散々に夜を徹して。散々に二人してシーツの上で組んでは解れてを繰り返して。それらの果てに目眩程度の極端に短い眠りしか執っていないのだから仕様がない。

その僅かな眠りから覚醒して、手塚に襲うのは全身に纏わりつく倦怠感と体中に染み着いた体液の数々。
特に、最も濡れそぼった下半身は我が事乍らどこか情け無くもあって。リョーマが穿った穴から腿の裏側にかけて注ぎ込まれた愛液が垂れているのが手塚のその気持ちに拍車をかけた。

体内に残るものを排出するべく、手塚はのろのろと浴場へ向かおうとしていた。

「中途半端に掻き出すとまた腹下すよ?」

暗についていこうか、と仄めかすリョーマを振り返りもせず、手塚は首を横に振った。
もう、既に彼は前科がある。

「そう言われて何度風呂場で犯されたか」
「…記憶力がいいっていうのも時々問題だよね」

流れていく水音に紛れて、浴室という特殊な環境で記憶に刷り込ませる様に幾度も幾度も反響する自分の甘ったるい声をどうやったら記憶の箱から抹消できるというのか。普通に出せと言われても出せるような声では無かった。

初めの頃は、右も左も判らぬ状態であったものだから、リョーマに引き連れられて浴室へ向かい、こちらが体力の限界へ達しているのを良い事に無体を働かれた。
心の底からもう止めろと声を上げてもまるで功を奏せず、挙句に自宅の風呂場で失神した。それから何日間は一日の終わりに入浴するべく風呂場に入るだけで頭を抱えたくなる程の多大な羞恥に襲われた。

そんなことがあったものだから、それ以降暫く手塚は行為の後、掻き出す様な真似をしなかったのだけれど、そうすると決まって翌日、腰が重かったり時に下腹部が痛んだりと体調を壊した。
残したままにしておくと体に影響が出る、と身を以て学んだものだから、手塚はまずは自分で挑んだ。
一人で浴室に向かい、自分の指を恐る恐る挿入しては掻き出してみた。そんな己の格好はさぞかし滑稽を越えた恥ずかしい格好だったろうと思うけれど、翌日のことを考えればこそ、とそこは堪えた。
堪えてやり過ごしたはいいものの、何かが中途半端であったらしくてその翌日はいつもの腹痛が起きてしまった。
掻き出すものの長さが不足していたのか、将又、掻き方が正しく無かったものか。
その後も何度か持ち前の生真面目な性分から試行錯誤は試みてみたのだけれど、すっきりとした次の日を迎えられる日がまるで無かった。
そんな数週間で、手塚は自分ではどうにも無理だという自覚と、そしてイレギュラーな自慰行為を習得してしまったのだった。

そんなことが続いたものだから、意を決して手塚はリョーマに頼んだ。絶対に不埒なことは考えない、と約束させて。
けれど、悲しい哉。熱く火照ったセックスの後、そう時間も置かず目の前に従順な手塚の裸体があるとなれば、若さの真っ直中にあるリョーマの理性はそうそう抑えきれるものではなくて。
掻き出す指の動きは次第に怪しい手つきになり、終いには手塚の方が翻弄され、昂揚させられて、中のものを排出させる筈が逆に色々と注がれる羽目になった。

今度こそは何もしない。今度こそは何もしない。そう最初に約束を交わすも、不履行されることが多かった。多かった、というよりも守られた試しは無い。
最初に仕掛けるのはリョーマでも、それに便乗してしまう自分自身も認めていたものだから、手塚は頭ごなしに叱責も出来ない。
堪えようとしても堪えられなかった。手塚もまた、若さという誘惑に弱い真っ直中に存在していたものだから。

それ故に、手塚は自らの手で、という方を選択し始めた。
仮令、そちら側の経験が浅い自分ではどうにもこうにも難しいとは知り乍らも。

「ねえ」

艶かしい肢体をはみ出した小さいナリの悪魔は微睡みに捕われつつも手塚を呼び止める。
これで足を止めてしまうのだから、こういう場面での手塚が持つ意志の底は知れている。

「ほんとに一人で平気?」
「平気だと言っている」
「でも、オレの責任でしょ?」

挿れたのも出したのもオレなんだから。
リョーマはどこか気落ちした声でそう言うけれど、そのどちらをも許したのは手塚自身。

「オレだって男なんだから、責任取る度量は持ってる」
「越前…」
「明日、オレのせいで部長が痛い思いするなんてヤだよ。オレも辛い」

小さな衣擦れの音がしてひたひたと裸足で歩く音がした後、急に手塚は背中に体温を感じた。
視線を下ろせば、丁度胸の上に回されたリョーマの腕が見えた。

「ね?」

悪魔の囁き声はいつだって甘美な匂いを伴う。
また罠に嵌まるのだろうかと勘付きつつも、今度は首を縦に下ろしてしまう。自分の中の若さが疼くのだ。

リョーマと連れ立って浴室へ向かう手塚の足は、不安半分、期待半分。


















my way
わたしの書き方程度では狡猾の『こ』の字もありゃしませんが、時には狡猾に。
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