Don't tease a little child!
















人には誰しも表裏があるとは云うけれど、この人の場合はそのコントラストが高すぎやしないかと眼前に迫る手塚の端正な顔にリョーマはつい思った。

いつもは色事などには興味はありません、みたいなお堅い顔をして、
リョーマがキスでもなんでも、恋人として『そういう』ことを仕掛けてみれば、実に初い表情をする。
そうする度に慌てたり照れたりして、自分の手の内に収まっている時は酷く可愛い。
2つも年上の男に対して、こういう表現はどうかとも思わないでもないが、どうしてもそれしかこの人には当て嵌まらないのだから仕様がないと思って頂きたい。

だと云うのに。


リョーマは伏せさせていた視線を上げて、手塚を見た。


どういうタイミングでスイッチが入るのか知らないが、一瞬にして変貌する。
艶かしくひとつ笑うから、辛うじてリョーマは気付ける。

今回は、ベッドの上に手塚を押し倒し、キスを与えて衣服を矧ぎ、リョーマも自分の衣服を脱ぎ去った後、気が付けば彼は切り替わっていた。
手慣れた娼婦の様に、雄を誘うどこかの女豹の様な貌に変わっていた。

ギ、とスプリングの音を軋ませて、折角倒させていた躯が身を起こす。
こちらを品定めするマットな視線。それに自由を奪われて、リョーマは硬直を余儀なくされる。
つい先程までは、こちらが確かに主導権を握っていた筈なのに。

掌ばかりは大きい細く長い指が動いて、肌触りを楽しむかの様にリョーマの背を撫でる。背筋に添い上下に動き、肩骨の輪郭を有意義そうに艶笑のまま擦られれば、リョーマの下肢が反応を起こすのも自然の理で。
早くなる鼓動に連れられて汗がじわりと浮かんでしまうのも仕様の無い事。

急かす気持ちそのままに、手塚の腰を抱けば相手は、ふふ、と眼を細め嘲謔して身を攀じる。
それから、項にうっすらと浮かぶ頸骨を辿り出し襟脚から後ろ髪を梳いてくる。
じわじわと、リョーマの発汗量は増えるばかりだ。

誘われて今直ぐにでも彼を貪ってやりたいのに、そうはさせてくれない雰囲気に阻まれる。
手塚の腰に据えた手が細かく震えた。
それを肌伝いに気付いているであろう手塚の妖艶な顔は色を濃くするばかり。


完全に相手に飲まれていた。


ごくり、とリョーマのまだ低い喉仏が動き、腰に当てている手とは別の手で相手の肩を手繰ろうとすれば、身を僅かばかり捻って躱される。
代わりに、息がお互いにかかる距離まで相手から距離が詰められ、ちろりと舌が覗く。
もう、そこにリョーマ自身の意識などなかった。
ただ吸い込まれる様に其所へと口唇を向かわせた。

きっと、今、自分の頬は朱い。
これだけ心臓の音が五月蝿いのだから先に自分の躯の方が上気しているのだろう。
剰りに期待に胸が膨らみ過ぎている。
完熟した果実の様に魅惑的すぎる唇とその舌にむしゃぶりつきたくて仕方が無い。その中を、荒々しく掻き乱してやりたい。

けれど、早く早く、と急かす内心とは裏腹にリードはあちら。限界まで唇を寄せるのが精一杯で。
赫く熟れた舌をちらつかせ、リョーマの襟脚を指で散々に玩ぶ。その眼は浅く下ろされていて。

それこそ隙間の無い程にリョーマの心臓は高鳴った。
ドクドク、と脈が感じられず、ドッとただ勢い良く血が流れているだけの様な。決壊した河川の流れにも似ている鼓動。

最早、雄としての我慢の臨界点。
それが突破される寸前、僅かだけ手塚の視線が動いてリョーマの眼と交錯した。カチリと音がしそうな程に直線的に。

一際大きく、リョーマの心臓が跳ねた。
奔流の血管の中で、漸くドクリと脈が出来た。

思わず瞠目してしまうリョーマの反応が気に入ったのか、か細く笑って、手塚は身を更に寄せてリョーマの下唇を舐め上げてやる。
やっと触れられたざらりとした感触に、繋がれていた枷は弾け飛ぶ。

思い描いていた光景そのままに、千早ぶった有り様でリョーマは手塚の唇を貪った。

「…ん、………っふ」

満足そうな声を漏らして、手塚はリョーマをシーツの海に引きずり込んだ。

















体力の底辺まで消耗しきって、二人揃ってしとどに濡れそぼってしまったシーツの上で弛緩する。
まだまだ整いきらない荒い息でリョーマは口を開いた。

「アンタの、スイッチ入るタイミングって、急すぎて、困、る」
「そうか?」

溜息にも似た大きい息を吐き出すリョーマに、どこか晴れ晴れとした顔で手塚は相槌を返す。
そう、とベッドに突っ伏したままリョーマが頷けば、その顳かみに愛おし気にキスを落とされる。

「ただ、お前に欲情しただけだったんだがな」

とどめとばかりに耳元にそう囁かれて、赤味の差した顔を気怠くも持ち上げて手塚を睨んでみせれば、

「まだまだ、だな。越前」

と、スイッチの入ったままの媚笑で唇を攫われた。


















Don't tease a little child!
ちっちゃいコをからかっちゃいけません!
ヒコイさんに頂いた絵に見事に触発されました…。ご本人からも書いていいよーとお言葉を頂いたのでがっつりいかせて頂きました★
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