self control
熔けるだとか灼けるだとか、そんな感覚とはまた違う。
体の中で小さな気泡が起って、その刺激が内臓を駆け抜けているようで。一粒一粒、汗腺から汗が噴き出してくる感覚を、そして汗で濡れていく体が細かな点で熱く火照っていくのが手塚にも解った。
点は線に連なって一次元に成り、面になって二次元へと果てる。
「……ッ」
思わず息を詰めた手塚を、リョーマが面を上げて見詰め、楽しそうに笑みを浮かべた。彼の手が弄るは”いきり”たつ手塚の股ぐら。それも素肌の。衣服は既に部屋の隅へと放られてしまっている。
「まだ、ダメ」
「…えち、ぜ………ッ…! ん…っ、や…」
「らしくないね、そんな声」
可愛いけど、と手塚の顔を見詰めたまま、手を忙しく動かしたまま、リョーマはまた頬を緩めた。
「恥ずかしい?」
汗ばむ手塚の首筋に唇をひとつ落とした後、リョーマはそう尋ねてくるけれど、手塚が持ち合わせる感情の中では羞恥なんてものはなくて。
ただ辛いと。限界まで既に追い詰めたまま、我慢して、とリョーマが無茶を強いてくるものだから。そして言葉とは裏腹に、彼の掌や指は寸断なく下肢の要所要所を弄るものだから、手塚の中には混乱も生じていた。
体の生理的欲求が裡に溜まるばかりで、それが体温の火種になってしまっている。
「っァ……!」
ベッドの上で立てた両膝の震えは最初にリョーマが「待って」と言った時から続いている。もしも今が直立した状態であったなら、間違いなく地面に腰を下ろしてしまっていただろう。膝や足、腰に力はもう無い。膝を擦り合わせ、腿を摺り合わせて排出を止めようとしても、長く伸び、山折りに立てた両脚の間にはリョーマの足が割り込んできてしまっているものだからそれも叶わない。
性器の先端を握り込んでいるリョーマの片手が無ければ、もうとっくの昔に一発や二発、噴出してしまっていたに違いなかった。それくらいの時間と愛撫は齎されていた。おかげで、握り込んでくるリョーマの手は既にしとどと塗れ、指の間接を辿って指同士の隙間から一滴、また一滴と下に敷いてあるシーツへと吸い込まれてしまっている。
耐えつつも毀れ出る量はある程度出てしまっているものだから、シーツの更なる下にあるベッドのマットレスにまで染みを作ってしまっているかもしれない。
染み込んでいっているであろうこのベッドが自分のものでは無く、リョーマの部屋のもので良かったと、手塚にとってはそれだけが不幸中の幸いだった。独特の匂いを放ち乍ら染みのできたマットレスを母親に突き付ける度胸はまだ無かったものだから。
後でこのベッドやマットレス、シーツの持ち主であるリョーマが困ろうと、それは手塚の知ったことでは無い。その考えは冷酷なようだけれど、何しろ、そのリョーマの方から仕掛けてきた事柄なものだから、手塚にはそちらの方が正論だと信じて疑わない。
これこそ、自業自得、と云うに相応しい。尤も、こんな程度のことで慌てふためく肝を彼は持ってはいないだろうけれど。
きっと彼ならば淡々と親に突き付けてクリーニングの要請をしてみせるのでは無いかと、穿った見方があった。
「…っ、ぁあっ…! は……ッ」
手塚の両手は空いている。今、それを思い出したのか、手塚は腕を持ち上げ、両掌で顔の下半分を覆った。
自分の口から耐えきれずに毀れる切羽詰まった嬌声が耳障りだったのかもしれない。
若しくは、ふとした隙に「もう駄目だ」と強情な自分が嫌がる言葉を吐いてしまいそうだったから。
手塚の中に於いて、リョーマに屈することは有り得ない。今、こうして組敷かれていることは飽く迄、合意の果てなものだから、現況は屈しているの部類には入らないものとして。
口から鼻梁にかけて覆った掌の中で、声や熱が籠ることが瞭然と解る。掌には籠った熱のせいで付着した湿り気が多汗症の人間みたいに募った。そしてその燻された空気を詰まらせるかの様な必死さで喉の奥へと戻す。
次第に喉が爛れていく。具現では無く、抽象的な感覚という括弧付きだけれど。咽頭も熱ければ気道も燃え盛る様で。
それでも、猛火に当てられるものとも違う。我慢を強要されている中、ずっと感じている炭酸の気泡めいた小さな刺激で、体の裡が燃え爛れていく。表現の繰り返しで諄くなるが、それは”感覚”として。
短く、叫び声に似た嬌声は大したインターバルも置かず、けれど途切れつつ、手塚の口から落ちる。それは、呼気を破裂させるような音であったり、吸気を吃、と止めるような音であったり。
辛そうに瞼をきつく閉じ、赤面のこれぞ極みとばかりに上気し過ぎた顔を掌で覆うそんな手塚の下肢を弄ったまま、リョーマは満足そうに目を細めた。意地の悪い薄笑いでは無く、心を温めた微笑。
それを浮かべたまま、リョーマは手塚に我慢を尚頼んだ。強要では無く、それは強い懇願。
self control
問。越前さんは何をしたかったか。そこは(個人的には)掴んで書いてます。
さてなんでしょうー。
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