brisk fresh
















ほんの僅かな隙間を通り、扉を潜ると雪景色でも夢のような世界でも無く、まったくいつも通りの様相を見せる飼い主のプライベートルーム。
室内に一歩入ったところで立ち止まり、辺りを見回す。確かここには飼い主のあの少年と、彼が外から連れてきた矢鱈と背の高い人間がここにいたと、猫の小さな頭に収められているより小さな脳は微かに記憶していたのだけれど、彼等が見当たらない。

不思議がる声音で猫がひとつ鳴けば、斜め前にあるベッドの上に出来上がっていた小山がもぞりと動いて、こちらの名を呼び、「今いいとこだから邪魔しないでね」と耳に馴染んだ主の声がその中から聞こえた。
短い首をそちらに自然な動きで向ければ、ベッドからは人間と思しき足の裏が4つ、計2人分のそれが小山の裾から覗いていた。声の主とその相手は、こんもりと盛り上がったブランケットの山中にいるらしい。

純粋な興味から、猫は飼い主の言葉を裏切ってそちらへと近付いて行った。
猫もよく利用させてもらっているお馴染みのシングルベッドがぎぃぎぃとさもそれが古いベッドであるかの様に軋む音を立てている。その上へと、猫は軽快に飛び乗る。
けれど、乗ってみればみたで、その揺れは自分が起こしているものでは無いものだからどうしても不快に感じてしまい、今度は不愉快そうにひとつ鳴いた。

人間の足がはみ出ている裾とは真逆の位置、その小さな隙間から少年のまだまだ大きなアーモンドアイがちらりと覗き、視線は一度、こちらへとやってくる。咎める様な、険を含んだ目。
彼のそんな目を前にし乍ら、猫は暢気に再び不平で鳴き立てたけれど、少年からは先程寄越された批難の一瞥以上のものは向けられず、剰え、視線はまた戻った。眼下にある、何か、を見る方向へ。

止まない不規則な揺れが、矢張り自分のリズムと合わなくて、猫は上った時同様、軽快にベッドを飛び下りた。そのまま、部屋の隅――彼が本能的に一番居心地が良いだろうと感じ取った場所――へ向かい、蜷局を巻いて瞼を下ろした。

「…っ、ぁ」
「ここ、気持ちいいんじゃない?」
「――っ! ん…っ、…………ふっ」
「イイ?………――って、頷かないで、たまには声にしてみて」
「は…っ、ん…――」
「まあ、いいけど、ね…っ!」
「あ…っ! ぁ、あ…っ!ぇ…ちぜ…っ」
「…っ!」
「は…ッ」


部屋の隅で丸くなっていた猫の耳がぴくりと揺れたのは、長年暮らして来た家人達よりはまだ些か耳慣れない人間の声が一際高く、そして一際詰まった音を発した時だった。
暫し人の声は無く、乱れ、荒げられ乍ら繰り返される二人分の呼吸音。

くぁ、と大きな欠伸をし、床上でこれまた大きく伸びをしてから猫は立ち上がって身を起こすと、再びベッドへと近寄づいた。そしてベッドの前でちんまりと腰を下ろしてからまた鳴いてみた。
そちらの用が終わったのなら、今度はこちらと遊んでくれ、と言わんばかりの、甘えた”猫撫で声”で。

そうして鳴いてみても、今度はどこか水音にも似た音が幾度と無く吐息と思しき声の隙間を縫って部屋に響いた。その繰り返しが何度も何度も――それは猫が痺れを切らし出す程に妙な長さを持った時間――続いた後、漸く、呼び出しをかけた飼い主の少年が山の中から姿を現した。

額どころか、体中に大粒の汗を光らせ、薄紅に上気した頬を携えて姿を見せた飼い主は非常に満足、且つ、活き活きとした表情で、そうそう膨れ上がる事も無い筈の乱れた髪を後ろに撫で付けた。
そんな彼に抱き上げられつつ、てらてらと汗で光る頭越しに猫が見たものは、飼い主同様、溌溂とした様子で額の汗を拭う、背が高い人間の裸体だった。
















brisk fresh
飼い主が何やら不審でも、最中をわざわざ中に潜ってまで覗きに行かない、躾の行き届いた猫。
わたしなら問答無用で潜り込んで眺めさせて頂こうと思います。
動画でリョ塚本番シーンを見てみたいよー、とこんな場所で叫んでみたり。
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