revive lives
















何を買う訳でも無いのに、街に居ることがある。
その意識の存在を証明するものとばかり、手塚のポケットにもリョーマのポケットにも財布は疎か、小銭すら入ってはいなかった。
ただ二人でふらふらと、混み合う街頭を散策する様にただ歩き、人前で握っていいものかどうなのか未だ判断が危ういお互いの手が近いことだけを感じていた。

二人の頭上は澄み切り、晴れていて。太陽に照り付けられ熱くなるアスファルトばかりの土地と、同じく太陽に熱されて暑く感じる人々でごった返す街中は一歩進む度に温度が上昇している様な気さえした。
前鍔が伸びた帽子で焦す太陽熱を防ごうとしても、暖まる空気は遮れず、額が汗ばみ始めたのをリョーマも感じて、どうにかならないものかと空を仰いだ。
空の手前には手塚の顔があって、そちらを見た訳でも無いのに不思議と目が合って。次の瞬間に、唐突に顔を上げたリョーマのことを手塚が怪訝そうに見下ろし、目を細めた。そのまた次の瞬間に、ポン、と突然変異みたいな奇妙さで、足下の黒いアスファルト上により暗い色の円い染みがひとつ出来た。

リョーマの頭を飛び越えて、手塚がそちらを見た時だった。

わっ、と火が付いた様に泣きじゃくる子供めいて大量の雨粒が降り、みるみるうちにアスファルトは黒一色に変わった。
それと共に、辺りに居た数多の人間達は一斉に屋根のある方へと走って霧散していく。
手塚も、咄嗟に走り出した内の一人だったのだけれど、ふとリョーマが後を付いてきていないことに気が付いて足を止めた。

振り返った先の彼は、夕立の豪雨が降り頻る中、頭に乗せていた帽子をわざわざ取って上を見た格好のままただ佇んでいた。
一人、また一人と元居た場からは立ち並ぶ店舗の軒先へと逃げて行く中、彼は一歩も動く気は無いらしく。ずぶ濡れになったまま直立して、楽しそうに口角を引き上げ瞼を下ろしては更に顎を引き上げて上を見た。
最大限に面を上げたリョーマの顔には容赦なく大小様々な雨粒が落ち、丸みの未だ残る顎先から一滴、また一滴と滑り落ちるまでは酷く僅かな時間しかかからなかった。

けれど、常識人の括りに入る理性を持った手塚からすれば、リョーマの行動は奇妙以外の何者でも無く、雨で濡れた髪をのんびりと掻き上げるリョーマの腕を取って、すぐ近くにあった店の軒先へと連れ込んでしまった。他の通行人達がしていたように、雨から逃げた。

暑いばかりの空気に辟易していた中で、救いとも言うべき雨との戯れをリョーマとしては楽しんでいただけに、手塚が強引にそこから連れ出してしまったことは少々、不服で。
もっとあそこに居たかったのに。手塚だとて一見、平気そうな顔をしつつも暑そうな雰囲気を滲ませていたくせに。
雨で暑くなった体を冷やすことの何が道理に背いているだろうかと、やや恨みがましい目でリョーマは手塚を見上げた。
そのまま、捻くれた苦言の一つでも、と思っていたのだけれど。

見上げた先にいた手塚は、先程、空を背景にして隣に並んでいた時と同じ顔で、店の軒先を背景にして並んでいた。雨中で立ち止まっていたリョーマを暫間、不審気に眺めていたせいでリョーマと同程度で服も髪も雨に塗れていた。
雨を含んだ前髪が額に貼り付き、眉を僅かばかり顰めてそれを取り払う手塚の目はこちらを見てはいなかったのだけれど、それが逆にリョーマを客観に立たせるには効果的に働く。

随分と現代離れした艶やかな人間が隣に立っているなあと、瞼を伏せ、頬に付いた雨粒を指の腹で拭う手塚の横顔に思った。

感嘆が入り交じるリョーマの視線に、次の瞬間には手塚はふと気付き、視線を遣れば彼はにこりと目を上弦の曲線に変えて、

「生き返る、よね」

雨も、その貴方の横顔も。と続けた。

















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リフレッシュ、みたいな。
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