invite confuse
その行為は道具の用途を根幹から破壊するも同じことだと、頭では判っていた。十二分な理解をしていた。してはいたのだけれど、うずうずと胸中で蠢くものは、目の前にあるものを睨み続けることにより増々膨張していく。
ベッドで腹這いに寝っ転がり、顎先を枕に埋める手塚の眼下、顔の乗る枕のその上にはパッケージの開けられていないゴム製の避妊具が1人分。
薄っぺらいそれは、定期的にリョーマが手塚の部屋に据えられた机の引き出しへと箱単位でこっそりと隠し入れていくうちのひとつ。隠しているのは手塚の目からでは無く、手塚以外にこの部屋に入る機会があるであろう家人の目から。
そんなもの、隠したところで行為後に部屋に漂う烏賊臭い香りは消せはしないし、シーツを洗う頻度の高さから、それとなく露見しているだろうと手塚は思うのだけれど。
それでも、部長もオトシゴロだからね、と彼は苦笑いを浮かべる。
そしてそんな恋人の表情をふと思い出して、手塚の中に住む虫はまたもぞりと頭を擡げてしまう。
腕を少し動かしたところには、きちんと針先が隠されている安全ピンがひとつ。それを使ってパッケージされたままの避妊具に穴を数カ所開けてしまいたくて。
けれど、眼下にあるこれが避妊よりも男同士のセックスに於いては衛生の部分を重視して使われることを思うと、穴を開けてしまっては道具として成立しなくなる。
不成立を思っても、ゴムの薄皮一枚で遡上の感覚が完全に無くなってしまうことは、手塚には不便でしかない。アレが良いのに、と不平を唱えずにはいられない。けれどそれではその道具の意味が無くなる。
そんな、もうどうしようもない葛藤が先程から繰り返され、安全ピンに視線を遣る度、そわそわと手塚の中では誘惑の虫が騒ぐ。
けれど、とまた否定をする要素はすぐに湧く。
この道具を使うのはリョーマの意志で、そこには彼からのこちらを慮る恋人としての誠実さが見える訳で。
性感染症は発症の後、命を落としかねない。そのリスクは彼と自分とフィフティーフィフティーなのだから、彼を思い遣る気持ちとして手塚も了承しなくてはいけない。
彼にリスクは負わせるべきでは無いと、それもまた手塚は理解している。『けれど』、矢張り自分の欲が珍しく先に立つ。
男と女の恋愛ならば、夫婦になった暁には『子作り』と称して堂々と避妊具無しで行為に及べるけれど、男と男で揃ってしまった自分達の行く末には夫婦という選択肢も無いし、勿論、自然な流れでの子供も作りようがない。――不自然な形でならば、昨今では同性でも子をなし得るそうだけど。
そんな余談はさておき。
『いつか』堂々と真っ向勝負のセックスが出来るようになる関係ならば多少の我慢をしてやらないでも無いけれど、そうでは無いのだから、やりたい時に好きなようにしてしまっても良いのではないのかと。
つい、迂闊にも手塚はそう考えてしまう。
第一、行為後に外され、膨らんだゴムの先に溜まったリョーマの精液が惜しくて仕様がない。本当ならばそれは自分の裡で吸収される筈だったのに、と。いっそリョーマの手から、外した避妊具を奪って、中に溜まったそれを啜り明かしてやろうかと苦く思ったことさえある。
苦かろうが臭かろうが、使用後の避妊具を捨てる為にその場で包まされる味気ないティッシュ如きが出口兼入口から漏れ出したそれを吸い込んでいい義理は無い。
自分の体内を、リョーマの体液が駆け抜けていく感覚が欲しい。セックスのクライマックスとして手塚が望むことはそれ。
それ以外でも、要所要所で手塚なりの要望はあるのだけれど、道具を用いて邪魔をされるのは最後のその部分。
終わり良ければ全て良し。先達はよくぞ宣ったもので。詰まるところ、終わりが悦くなければ何だか台無しになった気がして仕方が無い。
終わりこそ、花咲かせる重要な部分。
遡上の威勢が落ちたとしても、一滴も摂り込めないよりはマシな話だろう。
ああやはり。
本能と我儘に従おう、と手塚は鋭利なピンの先を取り出して、コンドームの中央にずぶりと突き刺した。
そしてそれは今宵使われる。
invite confuse
ゴム代は越前負担で。使う前に衝動的に行為に及ぶ場合がほとんどだろなーと夢想しますが。つか、装着の描写をすると妙な間が空いて書き手も萎えるっつー話なだけなんですが。
避妊具は正しく使って安全な性生活を。
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