be suggestive of indecent thoughts
















光の消えた室内灯。夜の静寂が降りたどこか湿った空気。外も丁度雨。
それらは何か官能的なものがあり。
大きなドレープをベッドの上で描かされているシーツ。超過量に耐えきれず喘ぐベッドのスプリング。床には脱ぎ散らかされた二人分の衣服。
それらは官能的と言わざるをえないものがあり。
濡れる口と目と下肢、湿る四肢、上肢。相手のそれはリョーマにとって、官能そのものだった。

だけれどただひとつの要素のせいで、官能の果ては極められずにいた。

「…え…………――ッ」

非常に瑣末なことなのだろうけれど、手塚が最後までこちらの名を呼べずにいる。
呼吸の頻度が早くて言葉を紡げずにいるのか。それとも、わざとそこで止めてこちらをいつまでも甚振る算段でいるのか。まさか、名前を忘れたわけでは無いだろうし。

一体、手塚がどういう了見で一文字目以降を発せないかは手塚しか知らない。リョーマが聞き出そうにも、彼は後口を目一杯埋められて過度の興奮と悦楽とに溺れてまともに返事は出来ないことはおろか、恐らくリョーマの声もただの音としてでしか感知できていないに違いなかった。
ならば、前者の方だろうかと思考も残り僅かだろう頭でリョーマは選択しかかるのだけれど、色香が混じった手塚の性分を考えるだに、後者の線はかなり捨てきれない。
朦朧としているだろう意識の中で、恐らく本能的に潜在的にリョーマを玩んでいる。――かもしれない。

再言になるけれど、そのどちらなのか、というのは手塚しか知らない。
リョーマはただ推測を起てるだけで、正答を知ることは叶わないのだ。

だから、答えの解らぬまま、リョーマは抽挿を繰り返すばかり。膨らむだけ膨らんで弾けきれない性器を持て余して。

ぎつ、ぎつぎつ、ぎしりと容易くスプリングは鳴く。
音を溜めたり、一音だけ弾けさせたりし乍ら、手塚も割と容易く鳴く。鳴き声はベッドの方が大きいけれど。

嬌声以外で手塚が出す音はリョーマのセカンドネームの最初の一音。

「え……ッ………ん―――…ぅ」

その次を早く言え、とリョーマの中にフラストレーションは溜まる。
そんな風に煽られてももう勃つものも無い。性器、鳥肌、感情。勃つべきものはもうそれで全て。
なのに手塚はまだ挑発を続ける。

リョーマを間に置いて立たせていた膝でリョーマの脇腹を擽る。踵は、染みをこの短時間の内に幾つも作ったシーツの上を囃す様に擦る。リョーマに打ち込まれている腰も妖艶にくねる。

やりたい放題だ――限りなく際どいところを維持されているリョーマは滲む諦観と共にそう思う。

最初にベッドへと誘ったのは自分だった筈で。手塚の衣服も眼鏡も取り去ったのは自分だった筈で。愛撫を加えてやったのも、手塚に汗をかかせたのも、手塚自身を膨らませ立たせてやったのもこちらであった筈なのに。
蓋を開けてみれば主導権は完全にあちら。引き金に指をかけているのは手塚。

高まっている筈なのに高まりきれていないボルテージ。

なんなんだこれは、と行為の真っ最中であり乍らもリョーマは嘆息のひとつくらい吐きたい気持ちに駆られた。

「……っ、ふ……ッ」
「……ねえ、名前」
「い……、………ぁ、あ…っ」
「…部長、オレの名前、最後まで呼んで?」

手塚だけが撒き散らした白濁の液が汚す手塚の腹に顎をちょこりと乗せて、随分と消耗した目の色でリョーマはそう囁く。
腰の動きも一度止めた。手塚も喘ぐことを止めて、これ幸いとばかり、酸素を取り込むことに少しの間専念する。
結局、リョーマの頼みに返ってきたのは手塚の荒く深い呼吸と沈黙だけ。そんな閑散とした中に音があったとしたならば振動の余韻で、キ、と小さくなる二人の下から響くスプリング音。

所詮、聴覚は性欲に飲まれてしまうものなのか、それならばもう、より激しく動いて手塚の返答より早く自分で何とかしてしまう方が手っ取り早いのかもしれない。――どれ程、手間がかかるかは解らないけれど。

渋った顔色で腹上に乗せていた顎を上げ、行為を再開しようかと身を起こしたリョーマを、性欲に飲み込まれ乍らも手塚の視界は目撃していた。
そして、それに気付かぬままリョーマがゆったりと身を起こしていたその途中に

「…ぇち、ぜん?」
「………ッッ!?」

呼ぶと思っていなかったそれを呼ばれて、リョーマの意図とは別の意識はかちりと働いてしまって

「っあ――……!」


















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そして唐突に出ちゃったわけさ。
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