憂鬱の午後
















ソウイウ系統のお話なので、駄目な方はブラウザバックを推奨。


































彼を変えてしまったことが、結果的に良いことだったのか、悪いことだったのか、ふと思う時がある。
例えば、今もそう。



「…っん………ふ、ぅぅ、ん…」
「…もう、そろそろ、イキそ?」
「もう、すこし……ん…っ」

二人しかいない昼休みの生徒会室。
他の教室には置かれていない、フェイクレザーのソファの上。本来ならば腕を預けるアームレストの一端には頭部を、もう一端にはすらりと伸びた脚を余すように乗せる手塚の姿があり、全身を薄紅に染めるその手塚の下肢に顔を埋めるリョーマの姿があった。

寝返りを打つ要領で、手塚が上背を捻る。
くの字に曲げられた左の肱が盛夏の日差しを遮る様に額に掛かる。甘い声が薄く開かれた唇からまた上がった。

「も、その声でオレのが先にイキそうなんだけど…」
「続、けろ…喋ってない、で…」
「ハイハイ」

週の半ばになると、リョーマは強請られるようになった。




手塚への体の負担から、朝練が欠かさずある平日には睦言を交わすことは不可能で、二人の情事は決まって週末へと持ち越される。
話し合って決めた訳ではないが、一度平日にコトをし、立ってるだけでも辛そうにしている手塚を見て、リョーマが一人で決めたことだった。

しかし、その身に叩きこまれた刺激を慣性としてしまった手塚が意外にも出来上がってしまった。
そんな手塚の様子にリョーマが気付いたのは、いつもの週末での逢瀬でのことだった。
優しい口吻けを手塚の身に施しつつ、一枚一枚衣服を剥いだ先に、自身の手で酷く扱われたと思われる形跡を残した性器を見つけた。
思わず、言葉を失したリョーマに、手塚もつい口を噤むものだから、リョーマの口から苦笑が突いて出た。



それ以来、手塚が発情を起こした時はリョーマが付き合う約束になった。
但し、やはり手塚への負担という面から、完遂はせず、週末までの応急処置としてその下肢の欲望を吐き出させてやることのみ。

火照った顔をさせて手塚がリョーマの元を訪れることがそれの合図となった。週末の余韻が切れるらしい週の半ばに一際頻繁にやってくる。
今も、昼休みの鐘が鳴って数分と経たないうちにリョーマのクラスへと手塚がやってきた故の事だった。
自己が最大の権限を持つ生徒会の執務室の鍵をちらつかせながら。






入り口の鍵を閉めるとほぼ同時、急く様にリョーマの首に腕を絡めてきた手塚を宥めるようにキスを其所彼処に落としてやり、ソファへと傾れ込んだ。
自らも腰を浮かせ、スラックスを剥ぐリョーマの手を助け、肝心の場所へと誘った。
既に頭を擡げ始めた自身の根に舌を這わされた瞬間に、心待ちにしていた様に手塚の口角が喜色で歪んだことをリョーマは知らない。

「っ…、えち……ぜ…」
「ん?出そう?」

身を頻りに捻り、悶える声で名を呼ばれ、口に含んでいた鈴口をリョーマは解いて尋ねる。
その問いに、小さく、けれど何度も手塚は首を縦に振ったのを見留めて、またリョーマは顔を剥き出しの手塚の下肢に埋めた。

口腔の内で、煽る様に舌を動かせば、ピッチも早く嬌声が上がり口内のものも肥大していった。
それから然程間を置かずに、咽喉を圧迫するものが放たれ、手塚の体が一瞬にして弛緩した。
胸を上下させる手塚の足下で、コクリ、と嚥下される小さな音が響く。

「気持良かった?」
「ん……」

胡乱気に、気怠気に漏れる相槌を耳に受けつつ、口の端に付いた残滓を指の腹で拭う。
その指にも、僅かに白濁の液が付着していて、結局リョーマは己の五指をひとつずつ舐め上げた。

「…美味いのか?」
「へ?」

中指まで掬いとった折、不意に声がかけられる。
昼間だというのにカーテンの引かれた薄暗いこの密室には、自分と情事の相手しか居ない。当然、リョーマの眼はまだソファに身を沈めているその相手へと向かった。

額に当てていた腕から双眸を覗かせるようにして、こちらを窺っている手塚が視線の先に居た。

「美味いよ。アンタのだし」
「…そうなのか?」

突然の問いにも、リョーマは平然と答えた。
そんな恋人を疑う様な眼で射抜いた後、ゆっくりと手塚は身を起こし、薬指を口に運んでいたリョーマのその手を掴んだ。

「…ちょっ」

戸惑うリョーマなどお構い無しに、淡々と手塚はその指を自分の口へと突き入れた。
意志を持ったざらりとした感触がリョーマの指の輪郭を辿り、思わず息を呑んだ。

ぴちゃ、と水音をさせて手塚の口から指が解放され、閉ざされていた切れ長の眸が薄らと開かれていった。

「…………」
「ど、どう?」

何と間の抜けた質問だろうかと我ながら思うが、正直なところ突然の恋人の行動に脳がパニックを起こしかけていて、他に言葉が思い浮かばなかった。

暫間、浅く瞼を持ち上げたまま、リョーマの手を掴んだまま、手塚は黙していた。相手が次の言葉を発するまではリョーマも口を開きようがなく、昼下がりの生徒会室には沈黙が訪れていた。

「…美味いのか?これは」
「う、美味いと思ってるんだけど」
「………。苦くて臭くて不味いな………。自分のものだからか?」

ブツブツと顔を曇らせて呟かれ、リョーマは困惑の一途を辿った。


不意に、正面から顔を見据えられた。
何かを秘めている様に窺えるその双眸に、思わずリョーマは後ずさろうとするが、逆に手を引かれ結局は間を詰められた。
間近に迫った手塚の顔色が享楽で染めあげられた。

「…ちょ、アンタ、何する気………」
「相手のものだからこそ、美味いのだとは考えられないか?越前?」
「や、一理あるかもしんないけど………って、ちょっ…!!」

最後までリョーマが意見するのを待たず、視界がグラインドした。天井が目の前にある。
先程の形勢が逆転していた。

「お前も、そのままでは辛いだろう?」

片手は未だ掴まれたまま、腰骨のあたりでカチャカチャと金属音がする。言わずもがな、手塚の手によってリョーマのベルトが外されていた。

「本気?」
「まさか、冗談だと思うのか?」
「これはこれで嬉しいけど……なんか、複雑」
「遠慮しなくていいぞ。据え膳は喰らっておけ」
「この場合、オレが据え膳なんじゃないの?」

観念した様に、リョーマも強張らせていた体の力を抜いた。
手塚の享楽の色が深くなる。

「も、好きにしていいよ」
「いい子だな」
「性格悪い顔してるよ…。手塚国光サン」
「何とでも言え」

目許が嬌笑へと完全に移行する。
こういう顔も、自分との関係を始めてからするようになった。決して嫌いな顔ではないが、剰りにも淫らに似合い過ぎていて、膚が粟立つのは止められなかった。

「…ん」

ぞくりぞくりと背を駆け昇っていく感覚と同調して体中の毛穴が小さく膨れ上がる。
既に触覚が鋭敏になっている其所へと辿々しくも舌を伸ばされ、伝わされて、ぴくりと背が跳ねる。
予感に先走る白濁が孔から溢れ始めた。

「ん、んん、んっっ…そこ……すご、気持ちい…」

はぁっ、と大きく息を吐き出す。
その声に応えるとでも言うのか、リョーマが反応を示した箇所を執拗に舌先で抉ってやった。

「あ、ぅん……、イイ…。も、でそ……」

くちり、と唾液と精液にすっかり塗れ始めた稚拙な舌が茎に絡まる。

「部長、も、出る、から…」
「だから?」
「口、離して」
「まさか。何の為に咥えてると思っているんだ?」

行為に没頭していた手塚の顔が持ち上がり、愉しそうに言葉を紡いだ。

「何の為…って」
「もう少しなんだろう?大人しく出せ」
「出せって……。アンタが、そこまでしなくていい…から」

徐々に迫る終わりの予感と熱の上昇で、背に薄らと汗が浮かぶ。
離せ、とでも言いたげに、身を起こして肩を押し返すが手塚は一向に退かない。

下腹に力を込めて、抑制を図ってみるが、相手は本能。格闘する根気も空しく、一際重い嘆息と共にリョーマの喉と背が反り返った。

自らが放ってしまったものとその放たれた行き先に、体が弛緩するよりも早く急激な速度で自己嫌悪が襲い掛かっていた。
そんなリョーマを追い打つ様に、ゴクリ、と大きく喉が鳴る音が鼓膜を打った。

「も…、ダメ、すごい悪い事した気分…」
「ふむ。成る程な」
「なるほど、って、何が?」

視線も険しく、リョーマは顔を擡げる。
一方の手塚は、口の端から溢れてしまったらしい白濁を掌で拭いつつ、思案顔。

「相手のならば、味も変わるな」
「そんなしれっと…」
「試しに舐めてみろ」

ずい、と今拭ったばかりの掌がリョーマの前へと差し出される。

「や、いらないから…」
「いいから。不味く思うぞ」
「や、ホントいいから…。共食いじゃん、これって」
「食ってみろ」

有無など、始めから聞く気などなかったのだろう。
逃げようとするリョーマの唇の稜線の間から強引に指を捩じ込んだ。

リョーマの味覚は、得も言われぬ青臭さを掬い取り、思わず眉間に皺が寄る。

「にが…」
「ほらみろ。実証されたな、これで」

指の腹をこれ見よがしに赫い舌先でちろりと触れ、満足気に手塚は整った顔を愉しそうに綻ばせた。






彼を変えてしまった事の善悪に、やはりリョーマはまた頭を悩ませるのだった。
























憂鬱の午後。
人様の本を読んでいたら思い付いた突発ネタです。
こう、お互いの手でゴリゴリやった後の手は、ぬめぬめしてんだろうなあ…その後どうするんだろうなあ…とか思索に耽っていたら何かが下りてきました。
塚リョくさくもありますかね…。
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