結晶
「お向かいのお宅に赤ちゃんが生まれたんですって」
日曜日の越前家の朝食の席で菜々子がゆっくりとそう話した。
やっぱり赤ちゃんは可愛いだとか、それにつられて母親がリョーマの生まれた頃の話を持ち出して来て、父親までそれに便乗し出したものだから、気恥ずかしさからリョーマは席を立った。
「あら、リョーマさん、まだ残ってますよ?」
「もう部活行く時間だから…。行ってきます」
そして逃げ出す様に家の玄関の敷居を外へと跨いだ。
学校までの道乗りで、リョーマはふと考えた。
普通の男女間ならば、恋愛の果てに『愛の結晶』という比喩を用いられて子供が誕生する。
しかし。
自分の今している恋愛では、到底、愛の結晶なんて生まれてこない訳で。
「どうしたらいいわけ…」
「知るか」
時は過ぎて、部活の休憩の時間が訪れていた。
今日もいつもと変わりなく空は晴れ渡って、自分達の頭の上から太陽が照っている。
名前など知らない鳥が遠く鳴いた。
そして、そんな休憩の時間にリョーマは今朝の疑問をそれはもう率直に恋人にぶつけた。
「知るか、で終わらせないでさ、もっと真面目に考えてよ。由々しき問題じゃん」
手塚の隣に腰掛けてリョーマはきりりと眦を上げてみせるが、そんな彼等意に介すこともなく、黙々と手塚は自分の昼食を摂り出した。
「部長もオレも一人っ子じゃん?これって凄い大問題だと思うんですけど」
「子供の話題はいい」
「? なんでそんなに不機嫌なの?」
「この間乾にとくと語られたところだ。それについては」
「子供について?」
「そうだ」
「ぶ、部長ってば、オレの居ないとこで乾先輩と子供作る話なんかしてたの…っ!?」
すっく。
「おい、何処に行くんだ?」
「ちょっと乾先輩シメに…」
「激しく何かを誤解しているな…。いいか、最後まで人の話を聞け」
「?」
「斯々」
「ふんふん」
「然々」
「へー」
「是々」
「ふーん」
「云々」
「…まじで。オレと部長の子供できない訳じゃないんだ…」
「しかし、遺伝子的には似ているとは言ってもだな、完全に二人の間の子供という訳では…と、いうか、俺への負担を考えろ。誰が産むか」
「えー」
「凄く残念そうな声を出しても無駄です」
「えー!?」
「驚いてみせても無駄です」
「えー…」
「意気消沈してみせても駄目です」
「………」
「駄目です。無駄です」
「なんでそんなに絶対的に拒絶なんですか」
「じゃあ越前さんが産んでください?」
「攻めが産んでどうすんの」
「攻めってなんだ、おい…」
「こっちの話です。気にしてはいけない」
「すっごい気になるんですけど…」
「気にするとハゲるよ」
「生憎うちの家はその遺伝子は組み込まれておらんのでな」
「ああ、じゃあオレらの子供が男でもハゲの心配しなくていいね」
「どこまでもそこに戻るのか、お前は…」
はあ。
「何もだな、子供が全てだと思わんでも良くないか?」
「?」
「別に、好き合ってるならいいじゃないか、と言っている」
「うーん、まあ、それもそうなんだけど」
「子供も、好き合っている男女間の結果なだけだ」
「うん」
「俺達は俺達なりの『愛の結晶』とやらを作ればいいだろう。子供の代わり、とまでは行かなくても。別に目に見えないものでも構わん」
「アンタって時々、オレ以上に突飛なこというよね?」
「そうか?」
「それでもって、言葉で殺すタイプだよね」
「は?」
「オレ毎回殺されてるんだけど、確信犯なの?」
「何がだ」
「素なんだよね…。こわあい」
「可愛い子ぶるな気持ち悪い」
「うわ、失礼!」
「ん?じゃあ、なんだ、かわいいなお前は、とでも言ってほしいか?」
「いえ、謹んで御遠慮致します…」
青い空が目に滲みる。
「……」
「…………」
ふわりふわりと雲が漂う。
「………………」
「……………………」
「ねえ」
「なんだ」
「どんなのが出来るかな?オレ達の『愛の結晶』」
「さあな(笑)」
結晶。
リョ塚子供談義。
乾と手塚が語り明かした(広告に偽り有り)子供のお話は84題目:放課後の最後にて。
手塚に母性が生まれたら子供が欲しいと思うでしょう。そんな日来ねえだろうとゆう。
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