Good Luck




午後も暮れ、影も長く伸びた青春学園中等部。
放課後に残って活動していた部もその殆どが今日の練習を終え、学校に人はまばらも残ってはいなかった。
そんな中、テニスコートへ向かう、小坂田朋香が一人。

(うふふ、リョーマ様、まだいらっしゃるかしら。一緒に帰りましょって誘っちゃおうっとvv)

テニスコートももう間近、というところで浮き足立ってスキップを踏む朋香の前を彼女同様に浮き足立ちながら、越前リョーマが駆けていく。

「リョ・・・」

リョーマ様、と呼び止めようとしたが、越前の駆けて行く先に男子テニス部部長、手塚国光が立っているのが見えた。
179センチの長身、風にたなびく髪、そして何よりも意志の強いつり上がり気味の瞳は紛う事無く手塚国光であった。
学校内の有名人の一人でもある手塚をミーハーな朋香が間違える筈はなかった。
加えて、朋香は視力が富に優れていた。

(あれは・・・手塚先輩!!こ、こんな時間に二人で何やってるのかしら…)

さすがの朋香もあの二人を前に飛び出す勇気は持ち合わせていなかったので、少し離れた木陰から様子を伺うことにした。

手塚が眉間に常時より皺を深くして、リョーマに何か言っている。
元より手塚は大きな声を発しないので、朋香のいるところでは何を言っているかは聞き取れなかった。
何を喋っているのか、朋香は知りたくなって、少し二人との距離を詰めた別の木陰に静かに移動した。

移動したのと同時に、朋香はプツンと何かキレた様な音を聞いた気がした。
何か踏んだのかと周囲を見渡すがそこには地面や盛り上がった木の根しかない。

「…好きな人、見てて何が悪いんスか」

周囲を見渡していた朋香に、手塚と対峙したリョーマが俯きながらそう呟くのが確かに聞こえた。
視線も自然に二人の方に向かう。

(リョ、リョーマ様の好きな人…っ!?)

リョーマから好きな人、という単語を聞くとは朋香は思っていなかったので、激しく面食らった。
見た感じ、越前リョーマという少年は恋愛には無関心そうに――少なくとも朋香には――見えていた。
誰にも恋をしていない、返せば頑張り次第で自分が傍にいられると思っていた。
しかし、リョーマに好きな人がいるのでは、いくら努力しても自分は傍に居られる人間にはなれないではないか。

朋香は少し、目眩がした。

「もう、この際だから行っちゃいますけど、オレ、手塚部長が好きです」

そう聞こえてきたリョーマの声に、手を離しかけていた意識を朋香は急いで引き寄せた。

(リョ、リョーマ様が、手塚先輩を、す、好きぃぃぃぃーー!?)
(ま、待って、落ち着くのよ、朋香。リョーマ様が手塚先輩を好き。リョーマ様から告白。それって……)

朋香はつい先日、女子同士の間で聞いた言葉の別の意味を思い出した。

(…下剋上?そうよね、下剋上よ。)
(リョーマ様の方が年下な上に身長も手塚先輩には足りないし、そして、何より二人の関係は部員と部長…)
(……おいしいわね。おいしいわ。 リョーマ様はかっこいいし、手塚先輩も美人だし、これって、凄くいい話なんじゃない?)
(そうよ、おいしい!!リョーマ様、私、応援しちゃう!!)

考えること時間にして2秒。
朋香は凄まじい程、脳をフル回転させていた。
そして、その思考は朋香の中に存在する、ある種の女子が特有する妖しい色のする心に火をつけた。

「返事は、まだ後で構わないッス」

そう言って、リョーマが放心したままの手塚から身を翻し正門へと駆けていく。
そして、その後を朋香は追った。


リョーマが速度を緩め、歩き出したのを見て、朋香は自分の速度を上げて漸くリョーマに追い付いた。

「リョーマ様っ!」

大声で、しかも突然に声をかけたせいかリョーマが驚いた顔をして朋香の方を向いた。

「あ、えーと。…あんた、誰?」
「桜乃の、友達の、小坂田朋香です!それよりも、リョーマ様、さっきの、本気、ですよね!?」

体育の授業でも出した事のないタイムで走りきった朋香は勿論のこと、息が切れていた。
一拍置き、さっきのって?とリョーマが彼にしては不自然な表情をして返した。
いつものポーカーフェイスがどことなく引きつっている。

「さっきのって言えば、勿論、手塚先輩への愛の告白ですよ!!」
「な・・・!」

呆れた様な、驚いた様な、そして照れた様な表情を相混ぜにした様な顔でリョーマは、見てたの、とそれだけ呟いた。

「見てましたとも! リョーマ様っ!!」
朋香がリョーマの両手を握った。
握られた手元を迷惑そうに見るリョーマなどお構いなしに朋香は続けた。

「私、応援しますから。絶対、手塚先輩落としてくださいね!」
「…は?」

一瞬、リョーマは朋香の言った意味がわからなくて、目線を手元から朋香の顔に急上昇させた。
そんなリョーマに朋香はにっこりと微笑みを返し、握っていた手を離し正門へと駆けた。
そして、未だ呆けているリョーマを尻目に、右手の親指を立てて振り返った。

「リョーマ様、グッドラック!!」

そう叫んで、正門を潜って去って行った。

朋香が去ってしばらくして、リョーマは覚醒した。
そして、濃いオレンジの中に早くも紺が混じり始めている晩春の空を見上げ、一人ごちた。

「…日本の、女って変わってる……まあ、でも、応援されてるからには頑張らなくっちゃね」

グッドラックと振り返った朋香を思い出す。

「…発音が違うよ。 GoodLuck だっての」

ふう、と一息、腹から吐き出す。

「幸運を、ねえ・・・」

そして、リョーマも正門を潜る。

「運なんかじゃなくて、実力で落としてみせるって、手塚部長は」





グッドラック、別名、朋ちゃんは見た!!
朋ちゃんの名字が判ったので漸くアップ。
某かの方とのヤフーメッセで語って出て来た、朋ちゃん同人説。(ここ太字で読んでください
勿論、リョ塚派です、朋ちゃんは。笑
今後とも、うちのとこには朋ちゃん出てくるかもしれないです。
女子キャラなら杏ちゃんが一番なんですけどねー。
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