ring
出会った頃より随分と時間が経っていた。
もう何度目になるか判らない、お互い肌を重ねて戯れた後の朝。
いつもの様に相手よりも遅くリョーマは目を覚ます。
目に飛び込んでくるのは、朝日に揺れる淡い色のカーテンとベッドサイドに腰掛けた、大好きな人の横顔。
何かを指に挟んで日に空かしている動作が見て取れた。
「おはよ」
起き上がりもせずにリョーマがかけた声に手塚がこちらを向いた。
「おはよう」
リョーマにだけ判る独特の微笑み方で頬を緩める。
自分はまだ全裸でシーツに転がっているのに、手塚はもう支度を整えたのか、上も下もかっちりと着込んでいた。
「ねえ」
寝転んだ体勢のまま、リョーマは手塚のシャツの袖を引っ張ると、首を傾げるようにして手塚がリョーマを覗き込んで来る。
「何見てるの?」
「ああ、お前から貰ったやつだ」
そう言って、手塚は先程迄日差しに空かしていたものをリョーマの眼前に晒す。
白金でできた、繋ぎ目の無い環。
それは、ほんの少し前に渡したリョーマの覚悟の証。
貴方の分の人生もオレが背負う、という証拠の品。
「越前、どうして結婚する時に指輪を相手に渡すか知っているか?」
リョーマの前に晒された白金がカーテン越しの柔らかな光を反射してキラリと輝く。
指輪から手塚へ視線を動かして、リョーマは口角を上げて笑った。
「指輪の継ぎ目の無い形は永遠に続く愛を表してるから、でしょ?」
そう、いつかに行った結婚式を執り成す牧師が説教がてらに語っていた。
永遠の愛、終わりも途絶えることもない、不滅の愛の誓いの為に指輪を相手に送るのだと。
その時、妙に感心したから今でも覚えている。
リョーマがそう自信を溢れさせて言えば、手塚は薄く目を細めた。
「確かに、そうも言うな」
「そうも、って、他にも何かあるの?」
てっきりそれだけだと思っていたリョーマがゆっくりとブランケットを纏ったまま身を起こす。
そんなリョーマに手塚は、自分の右手を掲げてみせた。人指し指と親指の間には挟まれたプラチナ。
自然と、リョーマの注意もそちらに向く。
「右手から、想いが入って来て恋になる」
手塚が左手の指先で右手首から左胸までを辿る。
「心臓まで来て、愛に変わって」
そして、今度は左胸から辿れるところまで辿って、左手を掲げてみせた。
リョーマの視線は手塚の手を追って、右手から左胸、左胸から左手の先まで動く。
「左手に行き着く」
掲げた左手に右手で持っていた指輪を嵌める。
勿論、いつも指輪が在るべき場所、薬指に。
「左手から愛が逃げていかないように、指輪で蓋をするのだと」
この間読んだ本に書いてあった、と手塚は付け足した。
へえ、とリョーマは愉しそうに感心したように呟いた。
「つまり、アンタの中もオレの中もお互いからもらった愛で充ち溢れてるって訳だ?」
「そういうことになるな」
くすり、とどちらからともなく笑いが漏れた。
「じゃあ…」
リョーマの腕がするりと手塚へ伸びて来る。
向かって来た掌は頬を包み込む様に触れ、ゆっくりとリョーマが手塚にキスを施す。
甘く食むような、味わう様なキス。
甘く食まれるような、味わわれている様なキス。
「時々、こうやって吸い出してあげないと、どっかから溢れちゃうね」
「それか、パンクする、かどちらか、だな」
「どっちもヤだな。ね、も一回。オレ達が送り合ってる愛って膨大な量だから一回じゃすぐいっぱいになっちゃうよ?」
頬からそのまま撫でる様に後ろへ手をやって、重力に任せてベッドサイドへ腰掛けている手塚の体を少し捻る様にシーツへと押し倒す。
「…お前、もう起きないといけない時間だというのは判ってるのか?」
そう、軽く溜息を吐いてみせるけれど、大人しく目蓋を閉じてやった。
ring。
ええと、75題目:白い約束を踏まえた感じで書きましたので、白い約束も一読頂けると幸いです。
大きくなって、リョーマも覚悟を決めて手塚に指輪を送った後の話、というノリで。
同棲してるノリで。
原作設定ではないので、一応パラレルに分類です。
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