微熱
朝、家を出た時からリョーマは具合が良くなかった。
登校してから、それが更に酷くなっている様な気がした。
全身が懈い。手足を動かすのも少し億劫な程。
具合の悪さの心当たりといえば、昨日、浴後にハーフパンツ一枚で寝てしまったことぐらいだった。
まだ日中は日差しが強いとは言え、どうも寝ていた間は冷えていたようで、今朝目覚めると肌が少し粟立っていた。
1限後、少しばかり眩りとした。
額に手をやると少し熱がある様だった。
堀尾達に勧められて、渋々ながら保健室へと向かう。
余り訪れない保健室は汚れを嫌うような潔癖な匂いがした。
ここに常駐している保健医とも顔を合わせるのは初めてに近い。
それでも、全校生徒に対してそうなのだろうが、穏やかに接してくれる彼女に悪感は抱かなかった。
保健医に朝から起こっている気怠さを伝えると、デジタル式の体温計を持ってきた。
言われた通りに腋下にそれを挟んでいる間、少しばかりのお喋りをする。
何年何組なのか、担任がどうだとか、自分の知らなかった学校の場所や裏話。
リョーマは殆ど相槌や返答ばかりだったが、保健医はそれに気を留める事無く次から次へと話題を持ち出した。
自分の想い人はこんなに喋らないな、と話を一方的に聞きながらリョーマはぼんやりと感じた。
暫くして、体温計が甲高いデジタル特有の機械音を鳴らす。
小さな液晶窓は角張った数字で37度を示していて、保健医は大事を取って帰るよう促した。
「大丈夫っすよ、これぐらい」
「そういう事言って、倒れても知らないわよ」
保健医はリョーマから返された体温計を元の場所に戻しながら苦笑した。
「一応、担任の先生に言っておくから。具合が悪くなったらすぐに帰りなさいね」
そんな保健医の言葉を背に受けながら保健室を後にする。
3限目。
頭痛がした。
(ツライかも…)
保健医も具合が悪くなったと思ったら帰っていいと言っていたし、しかもそれは担任にまで報告が行っているとの事だ。
自分から職員室に出向かずに直帰しても問題はないだろうと思えた。
(帰ろ…)
鞄に荷物を詰め、テニスバッグを肩に担いで足早に教室を去る。
下駄箱まで後少し、というところで向かいから知っている影が歩いてくるのが見えた。
「部長!」
まさか会えるとは思っていなくて、嬉々として手塚に駆け寄る。
手塚もリョーマの姿を認めて、互いの視線が通じる。
「越前。帰りか?」
「そ。どうも熱があるみたい。今日は部活休みます」
「そうか。何とかは風邪を引かないというが。良かったな、越前」
「何がッスか」
手塚の指す『ナントカ』が今一リョーマには判らなかったが、揶揄われている気がしてむくれてみせる。
それにしても熱か。
そう呟いて手塚がその長身を折り曲げて自分の額をリョーマの額に当てる。
(うわっ……)
反射的にリョーマは目を瞑る。
間近に迫った手塚の顔で、自身の熱が更に上がるのを自覚した。
「確かに、少し熱があるな」
「部長…日本じゃみんなそうやって計るの?」
そう言うリョーマに額を離して手塚が小首を傾げる。
「? 何がだ?」
「熱の計り方」
「うちの家では常にこうだが?」
まだ不可解な顔をしている手塚を見上げながらリョーマは一つ嘆息をつく。
「オレにはそれでいいけど、他の人の熱なんて計らないでよ?…妬いちゃうからさ」
「まだお前の物じゃないんだから、そういう物言いは少し早いな」
リョーマの頭を軽く叩き、安静にな、と言葉を残して手塚は歩を進める。
(まだ・・・?)
手塚の言葉を反芻して、抑えきれない笑いでついつい口の端があがる。
「部長!」
勢い良く振り返り、叫ぶリョーマに手塚も足を止めて視線だけでリョーマを振り返った。
「必ず惚れさせてみせるから、待っててよね」
手塚に向けて人さし指を突き付ける。
そんなリョーマに苦笑した顔を一瞬見せて、手塚は止めていた足を動かして去っていった。
(まだってことは、脈アリ、だよね?)
手塚と言葉を交わすだけで熱があがるのが判る。
いよいよ重傷だな、と心の内で自らを嘲笑しながらリョーマは帰路を駆けた。
微熱。
ベタですが、デコで体温測定。略してデコ測。
この時は手塚はボケですな。天然。
設定はまだ付き合ってない二人です。
というか、王子、ここは校内なので惚れさせてやる宣言は声を控えめに!(リアリスト
フォモがばれる!!ギャ!
保健医は是非眼鏡かけて髪を一つ結びにした質素な先生希望。