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「お前に会いたくなるっていうのは、どういう事なんだろうな…越前」
会いたい
それは昼食時のこと。
この日、手塚は大石と昼食を摂っていた。
「なあ、大石」
「何だい、手塚」
「家に居る時だとか、一人で居る時に、無性に特定の一人に会いたくなるっていうのは、どういう事だと思う?」
そういう手塚の顔を見ながら、大石は箸を取り落としそうになった。
「そ、そういう事が最近あるの?手塚は」
「ああ、最近、頻繁にな」
そりゃ珍しい、と呟きながら大石は箸を握り直す。
「珍しいとは?」
「だって、手塚が誰か一人に執着するなんて。今まで誰かを気に留めていたことなんてなかったろう?」
そういえば大石の言う通りだと、今までの自分を振り返って手塚は思う。
今までの手塚は、人に興味がないというのか、誰かの行動に関心を持ったり誰かのことが無性に気になる、ということはなかった。
恋心を抱いた幼い頃でさえ、相手の事に然程執着などしなかった。
そうして、自分の中で自然消滅した恋心というのは、手塚の場合、片手の半分の指で優に数えられる程度だった。
「で?その相手というのは?」
「……。 まあ、仮にRとしておこう」
「R、ね……」
弁当の卵焼きを頬張りながら大石が一人ごちる。
最近、乾伝えに聞いた、手塚に告白したという後輩もRから始まる名前だったことを思い出した。
「そのRにだな、家に一人で居る時だとか、外に一人で出かけたりする時、挙げ句の果てには授業中ですら、顔を見たいと思うんだ」
「はあ、それは、いよいよ珍しいね」
大石が本当に珍しがった顔で嘆息をつく。
「どういう事態だと思う、大石」
「そりゃあ、そこまで想ってるんであれば、恋じゃないのかい?」
恋?と手塚が大石の言葉を反芻する。
そう、恋だよ。と大石がすっかり箸の止まった手塚とは逆に白米を口に放り込みながら頷く。
「…恋、か。俺が。どうしたらいいんだろうな」
「そんなの、解決方法は一つだよ」
「?」
「相手に言ってみるんだね。最近、お前に会いたくて仕様がないって」
大石は残す事なく平らげた弁当箱の蓋を閉じる。
それを見て、手塚が考える様な表情のまま、箸を動かし始める。
手塚は箸の使い方が上手い。
それだけでなく、鉛筆などもあり得ない程綺麗に持つ、と大石は思う。
几帳面なのだ。
そして、家での躾が良いのだと思う。
しかし、その几帳面な反面、こういう色事にはどこか抜けているというか、ぼんやりしている事を大石は今までの付き合いから知っていた。
その手塚に遂に想い人ができたというのは、喜ばしい事なのだが、少し寂しいような、そんな妙な心持ちにもなった。
まるで、娘を持つ男親の心境だな、とそんな立場になったことなどなかったが、大石は内心、溜息を吐く。
「大石の言う通りかもしれんな。今日にでも言ってみるか」
「別に急ぐ必要はないとは思うけど、まあ、早い方がいいかもね。お互いの為に」
越前ももう待ち焦がれた頃合いだろうから、という言葉をそ知らぬ振りをしている大石は飲み込んだ。
何せ、乾から聞いた限りではリョーマが告白してからもうすぐ2週間が経とうとしていた。
リョーマは大石から見て短気そうな一面を持っているように思えたが、手塚の事に関しては気が長いようだ。
それでも2週間というのは決して短い期間ではない。
2週間も待たされているリョーマも気が気ではないだろうと、大石は少しあの後輩に同情の余地を持つ。
そんな、手塚の想う相手を知っているかのような大石の口振り――実際に大石は知っていたのだが――に手塚は小首を傾げる。
部活の後輩である越前リョーマが部活中、手塚しか見ていないことを大石は知っていた。
そして、そんなリョーマの視線に時々、手塚が視線を絡ませていることも。
全体の状況を把握するのは何もコートの上だけでの特技ではなく、もうその身が覚えているようで、部活中の何気ない瞬間ですら、知らぬうちに発揮していた。
まあ、何にせよ、あの組合は脱することになるだろう、と乾や不二の顔が脳裏をよぎる。
そして、不二や乾の後にあの生意気なルーキーの顔を思い出す。
「あいつになら、手塚を任せても大丈夫だろう」
手塚がまた、首を傾げた。
会いたい。
リョーマ、青学の母に許しを貰うの巻。
手塚告白返しまであと1話!(の筈)
こ、こんなに引っ張る気は当初なかったんですが。
リョーマが入部してから2週間、というと、原作で数えてみると、恐らく高架下の試合間近か終えているか微妙なところかと。
うーん、間近ぐらいでしょうかね、やはり。
大石の手塚への思いは好きだとかそういった恋愛感情ではなくて、もう、完全に父親のそれです。
大石って若いのに、苦労してそうだな。
若いっていうか、中学生ならまだ幼いの域ではないか?ねえ、わたし。