Pure
















「部長!?」
「越前…」

お互いが、お互いにどうして今此所に居るのかという疑問が浮かぶ。

「どうして、此所に…」

その疑問を先に口に出したのは手塚で、

「会いたかったーっ!」

腰に飛びつく、という形で体を先に出したのはリョーマで。
抱きつかれた反動で手塚が半歩後ろによろめく。

「こら、越前!」

引き剥がそうとリョーマの肩を押しやるが、背中まで腕を回して更に力を込めるリョーマはどうやっても剥がれなくて。
手塚はリョーマを剥がすことを諦めた。

(人通りも少ないし、暗くなってきたから目立たんだろう…)

自分に言い訳するように内心でだけそう呟いて、ぎゅうと抱きついて来ているリョーマを一瞥して、僅かな躊躇の後、手塚もリョーマの背中に腕を回した。
いつものリョーマの香りがした。

「部長、昨日は、その…」

手塚が背に腕を回した事に安堵感を覚えたのか、リョーマが回していた腕の力が緩む。

「ごめんね?」

ポツリと手塚の胸に顔を埋めながら、リョーマが漏らした。

「今日、一日考えて、オレも…悪かったな…って思って…」

途切れがちに。
ぽつりぽつりと零すリョーマが腕の中で小さくなって行く感覚を手塚は覚えた。

きゅう、と先刻リョーマがしたように手塚はリョーマの背に回した腕の力を込めた。

「いや、いいんだ。あれは俺が悪かった」
「ううん、オレだってば」
「違う、どう考えても俺だ」
「部長は悪くないって!」
「俺が悪い」
「悪いのはオレ、ガキ過ぎた…」
「俺の方こそ大人げなかった…」
「部長が怒ったのは当然だって!」
「いや、もっとあの時落ち着ければ良かったんだ。すまない」
「だーからっ!部長が謝る必要なんかないって!」
「俺が悪いんだから謝るのは当然だろう」

先程までの雰囲気はどこへやら、お互いが負けず嫌いの性分の為かいつの間にやら剣呑な雰囲気に変えてしまった。
二人揃って不機嫌な顔でお互いを見る。

暫間があって、どちらからともなく吹き出した。

「今って仲直りのシーンじゃなかったっけ?」
「そうだったな」

くすり、くすりと。
小さく笑い合って身を寄せ合う。

リョーマには手塚の心音が聞こえ、手塚にはリョーマの柔らかい髪が風に弄ばれる音が聞こえる。

どのくらいそうしていただろうか。

二人の傍らで沈んでいき始めていた茜は水平線に溶けた。
そのせいか、二人の眼下を潜って行く車のヘッドライトの筋がやけに目についた。

「ね、部長」
「なんだ?」
「…ちょっと、今、凄いキスしたい気分なんだけどしてもいい?」

遠慮がちに上目遣いで見てくるリョーマが何だか可笑しくて、手塚はついつい吹き出した。

餌を前に待てを命じられた子犬みたいにその大きな目で訴えかけてくる。


いい?いい?

と。
今、もしもリョーマに尻尾でも生えていれば間違いなく左右に揺らされていたことだろう。
それを想像すると更に可笑しくて、手塚はもう一度笑った。

「何笑ってんの?」
「ああ、すまん」

不機嫌そうなリョーマに取り敢えず詫びて、手塚はまだ吊上げたままのその目許に一つ唇を落とした。
唇を離せば、そこには仰天して瞠目しているリョーマの顔があって。
手塚の唇の線が笑みに変わった。

「…アンタから不意にしてくるなんてキョウアク…っ!」
「そうか?そういうお前はいつも隙を狙ってしてくるじゃないか。お互い様だな」

こんなにこの人は笑う人だっただろうか、そうリョーマが感想を覚えるぐらいに手塚は微笑んでいた。

その顔のまま、顳かみやら額やらに立て続けにキスしてくるものだから、思わずリョーマは目蓋を強く閉じた。

「ちょ…っ!待って…」

鼻頭まで唇を落とされたところで手塚の胸を押しやった。
どうした?とばかりに飄々と手塚が小首を緩く傾げた。

「嬉しい、けど……」
「けど?」

見上げてくる眼の周辺は微かに朱に染まっていた。
それをリョーマも自覚しているのか、隠す様に俯いた。

「照れ、る…からっ」
「これは、また、意外だな」

やけに今日は可愛らしい事を言う。
いつものあの気勢はどこへ形を潜めたものか。
俯いたままで視線すら逸らしている。

「意外とお前も純情に出来てるんじゃないか」

揶揄しながらも手塚は横面をこちらに向けるリョーマの耳裏辺りに吸い付いた。
その瞬間にリョーマの肩がぴくりと震える。

そして緩慢に手塚を見上げてくる。
深紅にまで染めた目許で微かに睨んだ後、反撃、とばかりに手塚の唇に自分のそれで触れた。
噛み付くぐらいの勢いを持たせたフレンチキス。

唇に噛み付いて、舌すらも絡め取って。
思わず手塚の腰が引けた。
相手の力が抜けていくのを感じ取り乍らもリョーマは未だ止めない。

リョーマが角度を変えた瞬間に手塚から艶を帯びた甘い声が漏れる。
それが、更にリョーマを加速させた。

こう言った時の手塚の顔がリョーマはひょっとすると一番好きかもしれない。
迫り上がってくる何かを堪える様に深く合わされた瞼も。
その瞼が小刻みに震え、共に震える睫毛の様も。
そしてその表情をさせているのが自分なのだということを覚えるとどうやっても止まらなくなる。

「……、っは…」

潤んだ瞳が纏う涙が灯り出した街灯の光を反射する。
綺麗だな、とこっそりと思う。
正直な気持ちだというのに、この人はその言葉をやけに厭うのだ。
だから、胸の内だけで。

「もう1回だけ、いい?」

だから、もっと触れたいといつも思う。
触れたままでいられ続けられたならどれだけ幸せだろうか。

手塚の答えを待たずにリョーマは手塚に口付ける。
一度は開いた瞳がその瞬間にまた閉じられる。

(まあ、なんだかんだ言っても…)

目の前には愛しい人の顔。

(キス仕掛けてきても絶対、口にはしてこないんだよね…)

触れる掌には愛しい人の温もり。

(部長の方が断然、純情だと思うんだけど、ね…)

感じるのは愛しい人のキモチ。






















Pure
純情。
押しには弱い攻めリョマというのもまた一興。
大胆な手塚は大好物です。
けれど、そんな押しもいつの間にやら形勢逆転させて攻めるリョマさんが一番好きかもしれないです…。
うちのとこのリョマさんの特徴の一つとして、キスするとき実は目を開いてるというのが、あったり、します。
時々はちゃんと閉じてますけど。
みつこは勿論毎回閉じてます。
ピュアっ子なので。
一応、
11題目:歩道橋の続きとなってます。
某小倉さんから続きを!とのご希望を頂いてしまったので!!
その節はありがとうございましたー!
小倉さんのみお持ち帰り歓迎で(いや、いらんて…)
しかし、歩道橋の階段上ったとこすぐでいちゃいちゃってね…。

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