註*ここから先は郭が在った時代のパラレル小説になります。
リョ塚テイストは変わりませんが、苦手な方は進入をご遠慮下さいませ。








































大丈夫ですね??



















遥かな時の向こうに





場所は京都。
市街から幾許か離れた郊外にひっそりと、そこはあった。


玄治屋


漆で塗られたかの様な独特の光沢を保つ黒い門、中の広々とした敷地を囲う鼠色の高い塀。

一見すると、何の店だか判別しないが、そこは、男を男の為に一夜だけ貸し出す、男娼の郭。

その如何わしい店の門へ、一台の車が乗り付けた。
従者が扉を開ければ、中からは漆黒の装いを纏う見目も麗しい男が一人出てくる。

男の名は、手塚国光。
職業は貿易商。
齢はまだ大人に満たなかったが、頗る辣腕を振るう者として、その業界においては一目置かれていた。

手塚が門を潜り、本館までの石畳を歩く。
硬質な踵が石畳を打ち、コツコツと規則的な音を鳴らす。

敢えて言及しておくが、手塚は他の男が来る様な目的でこの館へ来たのではない。
飽く迄、この館の主人が上客であった為に手塚自ら足を運んだだけである。


本館の扉の左右に男が二人立っている。

「いらっしゃいませ」

手塚に気付いた門の左側に立つ男が声をかける。

「生憎ですが、私は客ではありません。こちらのご主人に御用がありましてね。ご主人はいらっしゃいますか」
「その御用とは?」
「ただご主人に手塚が来た、とだけ伝えて下されば結構ですよ」
「…少々お待ち下さいませ」

そう言うと、男は本館の中へ駆けて行った。

今のは新顔か、と内心で溜息をつく。
此所にはこれ迄に何度も仕事で来ている。
其の都度、この扉の前に立っていた少年ならば、自分の顔を見ただけで了見を判ってくれたのに、と自分を知らなかった先程の男に思う。
愛しい者との待ち合わせでもないのに、ただ待たされるのは億劫だった。

暫くして、男が帰って来た。

「手塚様、お待たせ致しました。主人は南館におりますので」
「心得ておりますよ」

手塚の事を知らない男はそう告げるが、手塚は最初に来た時からいつも同じ部屋に通されているので、その説明は要らぬ節介というものだ。

本館の扉を開け、欄干沿いに歩き、中庭に十字に架けてある小橋を真っ直ぐ渡ると目的地だ。
小橋から見る庭は大層な物だが、ここに通う男達には無用の長物だ。
ここに来るのは、ただの性欲にまみれた男だけなのだから。
誰がこの手入れの行き届いた庭に感嘆の声などあげるだろうか。
男達には庭に生える見事な松の枝振りよりも春を売る少年達の白い肢体しか目に入っていない。

(見事だというのに。口惜しいな)

手塚は内心で庭へ哀れみを向けると、主人が待つ部屋の扉を三度ノックをしてから開けた。


「邪魔するぞ、乾」
「やあ、よく来たね、手塚」

この館の主人、乾貞治。
真四角で分厚い眼鏡をかけたこの長身の男は眼鏡の度がきついのか、レンズから目が透けず、いつも何を考えているかわからない。
手塚の印象はその程度だ。

しかし、客に印象も何も関係ない。
仕事を確実にさせてくれる相手ならば、手塚は人を選ばない。
そして、手塚の客を見る目は確かだ。
これが手塚が成功していることの一因でもある。

「待たせてすまなかったね、門のところに居たのは最近入った子でね。お前の顔を知らなくても当然だ。
 ちなみに前の子はね、身請けが決まったんだ」

手元の書類に判を押し乍ら話す乾に手塚は興味もなさそうに、そうか、とだけ答えた。

「仕事の話をしていいか」
「ああ、そうだったね。どうぞ、かけてくれ」

乾の言葉を受けて扉の近くで立ったままでいた手塚は主の部屋の片隅にある応接セットのソファに腰掛ける。
乾もそれ迄座っていた場所から手塚の向かいに座った。

そこから先は仕事の話。
乾はその持ち前の好奇心から海外の物に目がなかった。
店の見栄えの為に中国の青磁を手塚から買ったり、時には個人的な興味から欧州の絵画を買ったりもした。

いつもは手塚が乾の興味の有りそうな物の一つを持って来たり、交易したリストを持ってきて、乾の関心を引くものがあれば後日にでも代金と交換に持って来させたりする。
手塚が訪れた時に乾の持ち物で要らないと言った物を買い取って海外へ売り捌いた事もある。

何だかんだで乾は手塚の店の世話になっている。
男娼郭のくせに儲かっているのだな、と批難混じりに手塚は思う。


「じゃあ、三日後にでも持ってこさせよう。代金は其の時に」
「ああ。いつもすまないね。ところで手塚…」

手塚が商談を終えて席を立とうとした折、乾が声をかける。

「なんだ?まだ何かあるか?」
「ああ。ちょっと付いて来てくれるか?」

乾は立ち上がって、廊下と繋がっている扉へと向かった。
その乾の後を手塚はいつものペースで追った。

南館から中庭に降りて更に館の奥へ進むと、同じ敷地だというのに生け垣で区切られ、中に短く刈られた草の上に飛び石が置かれた庭へ出た。
その先には、ポツンと離れらしき平屋が建っている。

今迄来た事のないところへ連れて来られて――とは言えど、手塚は乾の部屋と入り口からそれへ続く廊下しかこの館を知らないのだが――どれだけ広いのかと、呆れた。

「あそこに行くのか?」

あそことは、平屋の離れである。

「ああ」

頷く事も無くそれだけ返した乾が生け垣を抜け、飛び石を歩いていく。
そして、其の後を手塚が従順しくついていく。

乾の所が今日最後の寄る処だったから、手塚は帰りを急がない。
店にはよく出来た社員がいるので、手塚が少し居なくても何も問題は無いと思われた。


乾が離れの引き戸の鍵を鍵束から取り出し、開ける。
カシン、という錠前が外れる音がした。

引き戸を開けて、手塚を中に進ませる。
中も外同様に完全和式の家屋であった。
土間だけでも随分な広さがある処や土間から続く廊下の先が遥か遠方に見えるところから見て、外から見る以上に広い造りになっていることは明白だ。

「なんだ?ここは」
「いつも世話になっているからね。まあ、ほんの礼みたいなものかな」

中は心持ち薄昏かったが、決して陰湿な感じは受けなかった。
そう、この昏さは、睦言を交わす郭の一室の様な――。

そこで乾を振り返って、手塚は気付いた。
乾が引き戸の敷居を跨がずにずっと屋外にいる事を。

嫌な予感がして、引き戸に手を架けようとしたが、一瞬早く乾が閉めた。

「乾!どういうつもりだ!!」

外から錠前がかけられた音がして、乾が鍵を閉めたことが判る。
ドンドンと引き戸を両拳で叩く。

「なに、監禁しようって訳じゃない。明日にでも開けてあげるから。
 ちなみに、ここの扉、窓は外からしか開かない。
 まあ、窓って言っても、木で出来た格子程度だけどね。
 それから最後に、この部屋は――」

カタン、と手塚の後ろで物音がする。
物音に手塚は視線を後方へ向ける。
背に在る引き戸の向こうから乾の声が聞こえる。



「うちの太夫の専用の部屋だよ」


手塚の居る土間から一番近い部屋から、一人の豪奢な和服を纏った少年が出てくる。

手塚もまだ幼い部類に入る少年だったが、その手塚よりも幼そうな、頭一つ分くらい背の低い少年が妖艶な笑みをその頬に称えて手塚に向き合う。

「お、お前は――」
「うちは越前言います。越前リョーマ」

引き戸の向こうで遠くへ歩いていく跫がする。乾が帰っていったのだろう。

「いや、そうでなくてだな」
「? 変なお人やなあ。まあ、宜しおすわ。乾はんから承ってますえ、さあ、どうぞ中へ」

歩く度にしゃなりしゃなりと音をさせるように、リョーマは出て来た部屋の片隅まで移動して掌で手塚に中に入るよう促す。

このまま土間に立ち尽くしていても埒が明かないとでも思ったか、手塚は流麗な動きで靴を脱ぎ、中へと上がった。

室内へと入るとその後にリョーマが続き、後ろ手に障子を閉めた。
中は10畳程の広さがあり、部屋の中央に布団が一つに枕が二つ置いてあって、手塚と云えども其れが何の為にあるかぐらいは判った。
ついつい、大きい溜息が出た。呆れた。
何が、礼だ、と心中で乾に毒吐く。

リョーマを振り返ると、畳の上に正座し、三つ指をついて頭を垂れていた。

太夫と云う称号にこの体勢、女郎屋そのものでまた大きな溜息が出た。

その溜息混じりに手塚は布団の上にどっかりと座り込んだ。

「やめてくれないか。俺はそういう目的でここに来た訳じゃない。
 仕事に来たついでにお前さんとこの主人に勝手にこの家に突っ込まれただけだ」
「知ってますえ、ここに連れてきてくれ言うたんはうちですもの」

リョーマが顔を起こしてにっこりとそう言うのを見て、手塚は絶句した。
あの主人と目の前の太夫だという男娼が共犯で在った事に素直に驚いた。

「うちの興味でね、乾はんにお願いしたんおす」
「興味って……この店は奉仕する方が客を指名するのか」
「いいえ、うちの場合は特別おす。他の子らはそんな事できまへんえ」
「だからって、其の気もない客を指名しても無意味だろうに」

本気で呆れて、手塚は後頭を掻く。
リョーマはスッと伸び上がって、そんな手塚の手を取る。
そのまま、指先に自分の唇を当てる。

「其の気がのうても良ろしんおす。うちが上、やりますさかい」
「は?」

リョーマの言っていることが理解できなくて、手塚の表情が間の抜けた風になる。

「つまりは、客側が犯されるのか?」
「そういうことになりますなあ。結構いはるんよ、そういうお客さん」

手塚は軽い頭痛がした。
金を払って迄、男に犯されたいと思ってる男がいるなんて、考えられなかった。

「まあ、この世界色んな人がいはりますからねえ」

手塚の考えを読んだかの様にそう言って、手塚の傍にリョーマが擦り寄ってくる。

「突然、こんな強引なことして、堪忍な。でも、うち、どうしてもアンタと逢いたかってん。
 前に、乾はんのとこに行った時に一度、アンタ見ましたんや。
 それから、ずぅっと、一目惚れや」

そう言ってくるリョーマを見ると、リョーマもこちらを見ていて、互いの視線が合った。

「ど、どのくらい、前に」
「ん?」
「どのくらい前に、俺を見た」

何だか気恥ずかしくなって、手塚はリョーマから視線を逸らす。

「そうやねえ、大体半年前くらいやろか」
「半年…」

半年もこの少年はただ一目見ただけの自分に恋焦がれていたのかと思うと手塚の左胸がキリキリと痛んだ。
不思議と、相手が男という事は気にならなかった。
元より、手塚は何に対しても偏見は持たない。その所為かもしれなかった。

「アンタを好きになってからは、どのお客さんの相手もしてへん。
 仕事放棄する代わりに此所に閉じ込められたけど」
「閉じ込められた…?じゃあ、外には…」

驚く手塚にリョーマは哀しそうに笑って、半年間ずぅっと出てへん、と答えた。

「閉じ込めるいうても、ご飯はくれはるし、こないな立派なとこに置いてくれはるし、良うしてくれはるんやけどね
 …2、3か月前くらいからやろか、ずっと乾はんにお願いしてたんよ。此所にアンタ連れてきてって。
 一目、アンタに逢うたら仕事に戻るから此所に連れてきてって。でも…」

リョーマは手塚に向けていた瞳を伏せた。

「ずっと断られてきてん。
 乾はんにはお見通しやったんやろね。
 アンタに一度逢うたら、死のうと思うてたんが」
「どうして…死のうだなんて」

また見上げた手塚の瞳が悲哀の色で溢れていた。
そんな手塚の頬に手を添えて、リョーマは微笑む。

「アンタ以外いらんもん。
 他の男の相手なんてしとうない」
「死ななくても、逃げるとか、他に手が…!」

ふる、とリョーマは軽く首を振った。

「逃げても、すぐ捕まりますのんや。
 捕まった子は死ぬより辛い目に遭うんやす。うち、そういう子何度も見て来たから。
 初めて見た時、あれやったら、死んだ方がマシやと思た。
 一つの見せしめっちゅう事も、あるんやろな、あれは」

手塚には何をされるかなど、見当がつかなかったが、話し乍らその情景を思い出しているのか青ざめているリョーマを見れば、本当に酷い事が行われているのだというぐらいは判った。

「乾はんは、うちには死なれたら困るんやろね。だからずっと断ってきはったんやわ。
 何やかんや云うても、うちを希望する御大仁は結構いはったから。

 でも、こうしてアンタ連れて来てくれるって話に一昨日なって。
 ずっと嫌がってたのに、なんで?て聞いたら、もう、覚悟が出来たて言わはった。
 何の覚悟?って聞いたら、アンタに身請けして貰えるよう頼むって。
 だから、死なんでええて。
 もし、あかんかったら其の時は好きにしろって言ってくれはった」
「俺がお前の身請け?」
「へえ。……堪忍な、会った事も無い男、身請けせえ言われても戸惑うやんね」

擦り寄っていただけのリョーマが悲し気な顔で手塚の体に両腕を回した。
そして、ぎゅっと力を込めた。

「もし、少しでもうちを想うてくれるんなら、抱かせて」
「……お前は」

たっぷり30秒程間を置いて、手塚が口を開く。

「お前は、幾らで身請けできる」

押し殺す様にそう吐き出した手塚の目元に朱が差していた。
それを聞いて吃驚したリョーマは口をポカンと開けていた。
そして、思い出す様に、普通の人買いではあり得ない様な高額な値段を呟いた。

「そうか。それなら、明日、乾と話をする」
「それって、うち買うてくれるってコト?」
「…あ、ああ」
 
目元だけだった朱が耳迄達している。
そんな手塚に嬉しくなって、リョーマは手塚に覆い被さる。
その勢いで、布団に押し倒す形になった。

「嬉しい!おおきに」
「ちょっ…!離せ、越前!!」

布団の上で両手首を押さえつけられた事に抵抗の声をあげれば、喚く手塚の口をリョーマは自分のそれで塞いだ。
リョーマの舌が手塚の口内に侵入して、歯列をなぞり、上顎を舐め、手塚の舌を吸う様に絡ませて蹂躙する。
窒息しそうになるくらい長い間、口を塞がれ、手塚の動かない拳が空を握る。

リョーマが満足そうに唇を離すと、目の奥が意地悪く光った。

「今夜は、寝かせないよ…?」

今迄の言葉遣いと顔つきが逆転するように、少年から獣の顔つきに変わったリョーマに手塚が息を呑んだ。
















遥かな時の向こうに。
手塚国光の受難。
う、うああああ、すいません、遂にやってしまった、パラレル。
しかも、花魁モノ…!!
ごめんなさい、花魁大好きなんです。
そして、同じ関西人なのに京都弁にモエ。
リョーマに花魁似合いそうだなあ、京都弁喋らせたいなあ、って思った私がこれを書く迄高めてしまいました…!!
一部、塚リョみたいな場面はありましたが、まあ、そのー、ご愛嬌?
……。
わあわあ、石投げないで!!痛い痛い!
花魁攻めって史上初?だったら意外性で面白がって頂けると嬉しいです。
私は京都の人間ではないので、リョーマはちょっといい加減な京都弁喋ってますが。
どっちにしても、いつもいいとこでブッツリ切る所詮オオザキな私です。
ご、ご要望があればこの後の情事を書くやも・・・?
脱兎!!
ありがとうございました〜
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