limit than limited
何がどうなって、此処に居るのか、まだ耄ける様な歳ではないので、リョーマはきちんと記憶している。
手塚に1日我侭を言え、と言って、部活中、碌にテニスもせずに部長代行とばかりに1年生の面倒を見て、膝枕までして、書いたことも無い部誌を書き上げて。
それから、手塚を起こせば、帰るから荷物を持て、とパシリ紛いの真似をさせられて、結局手塚の家にまで上がり込む羽目になった。
じゃあ、これで。と玄関先で別れを告げようとすれば、腕を捕まえられて、泊まっていけとの御命令。
突然の事態にリョーマが目を白黒させているうちに電話を放り投げられて、家に手塚宅に泊まるという事を伝えた。
明日が休みでも無い日の外泊に当然、電話向こうの家の人間も驚いていたが、何とか言いくるめて電話を切った。
突然の来訪で、リョーマの分の食事の用意など無く、手塚の母親が有り合わせで作ってくれた料理を頂いた。
有り合わせ、とはとても言えない至って簡素ではない食事にリョーマは少し申し訳なさが襲ったけれど、ちゃんと事前に連絡しなさい、と窘められている手塚を見れば、これは頂いておくべきものと図々しく思ってもいいかもしれないと思った。
それから入浴もそこそこに、手塚の自室へと連れていかれた。
其所で、キスを強請られた。
「こういう我侭は嫌いじゃないけどさあ…」
言い乍らも、再び手塚の唇に柔らかくキスを落とす。
本人たっての希望で、弛むことも無くピンと張られたシーツの上で、手塚に馬乗りになる様な体勢で。
「ん?」
「キスから先は駄目ってのは、ちょっと拷問地味てるんだけど?」
「明日は普通の平日だぞ?お前、俺の皆勤を阻む気か?」
「だからってさー、これは、ちょっと、男としてさあ、ムズムズしてくるって言うかさあ、ムラムラするって言うかさあ」
リョーマがごねるのにも理由がある。
手塚が要求したのはキスまで。しかも濃厚なキス以外。そして、それ以降の行為は絶対禁止。
迫り上がってくる情欲を何とか宥めつつ、リョーマは繰り返しキスを落とす。今度は瞼に。
「ならば、ネッキングまでなら許してやるぞ?」
「それこそ、オレのフラストレーションが溜まるばっかりじゃん。やだよ」
今度は首筋へ。短く手塚から声が上がる。
「そっちはいい」
そう言って、手塚の手がリョーマの後頭部を取り、自ら口吻けた。
やれやれ、と呆れた幾許かの想いはあるものの、甘んじてそれを受け入れる。
唇の境界線を舌で探り当ててはみるが、あちらはそれを開く気配はない。
躍起になってこじ開けようと試みるも徒労に終わり、手塚から唇を離された。共に、後頭部に宛てがわれていた掌も。
「鬼」
ぎろり、とリョーマは睨む。手塚は薄笑いで返す。
「今日は俺の好きにしていいんだろう?お前が言ったんじゃないか」
「そうだけど…」
「男なら二言は無いな?」
「……」
ちょっとある、というのが本音だ。
こんな真綿で首を絞められている様な現状を思えば、それも詮方ない。
不満を訴えるべく、再度リョーマは手塚の首筋に唇を埋めて、そして甘く噛んだ。
「噛むな。キス以外は禁止と言っただろう?」
すぐ離れた場所にも跡を付けてやろうとするが、強引に手塚によって頭を押し返された。
遂に、リョーマは頬を膨らませた。
「そういう顔をするな。不満は承知で俺に我侭を言えと言ったんじゃないのか?」
「だからって、こういうのが来るとは思ってなかったし…」
「どういう事を想像していたかは知らんが、偶にはこういう我侭も言いだろう?」
「最後までやっていいなら、ね」
ちゅ、とわざとらしく音を立てて手塚に吸い付く。
間近に迫った双眸が憎い程、妖艶に微笑む。
「そういう顔、部長こそしないでよ。余計ムラムラするでしょ」
「勝手に欲情するな。獣め」
「するに決まってんじゃん。一度、鏡で顔見てみたら?」
「自分の顔に欲情する程、ナルシストじゃない。ほら、どうした、口が止まってるぞ」
「ハイハイ」
額に、顳かみに。それこそ、忙しくなく手塚にキスを落とした。
触れる度に抑えるのが困難な情が湧いてくるけれど、相手がもっともっととせがむ。
「お前の、そういう欲情した顔もいいな」
「は?」
思わず、キスの雨を中断する。
腕を伸ばされ、首の後ろで絡められた。
「ソソる」
「じゃあ最後までやらせてよ」
「駄目だな。そういう耐えてる顔がいい」
「性悪…」
口の端から撫で上げる様に舌を這わせて、また重ねる。すぐに離して、もう一度落とす。
意識的なのか無意識なのか、吐息にも似た声が上がって尚もリョーマを煽った。
誰かこの性欲と不満を抑える方法を知らないだろうか。知っているなら直ちに教えて欲しい。
開いてはくれない口唇に触れては離れ、離れては触れるバードキスを続ける。ここまで来るといっそ事務的な香りすらするのが悲しい。
ふと、リョーマの視界に部屋に置かれた時計が映った。
「…あのさ、部長」
「なんだ?」
「オレ、確か今日1日、って約束したよね?」
カチリ、と硬質な音を立てて、先程リョーマが見留めた時計がひとつ、針を進めた。
「ああ、言ったな」
「じゃあ、日付けが変わったら、アンタのワガママは時効、って事になるよね…?」
「そういう事になるな。…………まさか…」
それまで大人しくリョーマの下に滑り込ませていた体を捻って、手塚は時計を仰ぎ見た。
その時計が指す時間は、あと僅かで日付けが変わるという時刻。
「今日、オレをさんざんこき使ってくれた分をお返ししてあげるよ…!」
不敵に笑うリョーマを前に、手塚は血の気を引かせるかと思いきや、先程と変わらぬ余裕の笑みで、リョーマを見据えた。
「寝よう」
「はい?」
「あと1分で寝ろ。これが最後の我侭だ」
「いや、もうそんなのワガママ越えてると思うんだけど…!」
「いいな、寝ろ。俺はもう寝る」
それを最後に、リョーマに絡めていた腕も解いて、ごろりと壁際に90度回転した。
「ちょ…っ!汚ないと思わないの!?そういう逃げ方…!」
「あと50秒」
「…〜〜っ!明日絶対泣かしてやる…!」
ぎゅう、ときついぐらいに手塚を抱き込んで、リョーマもシーツへと身を沈めた。
矢張り、この人の方が表には出さないだけで自分を越える我侭だと強く思いながら。
limit than limited
18381hit、ありがとうございました。草薙まことさんへ。
『Greedestest』の続きで、えちをお持ち帰りでいちゃいちゃで、とウハウハなリクを頂いたので調子にのりました。
娼婦…!娼婦手塚降臨…!!?手練れもやっぱり好きです。
とっときに性悪い子…!!
誰かそんな塚を書いてわたしをウハウハ言わせてください…!!妖艶に笑う手塚を…!!もう嘲笑する手塚でもいいから…!!後生です…!
明日にはいつも通りヒイヒイと泣かされていることでしょう。寧ろ、倍、更に倍?…なむ。
18381hit御礼。多謝多謝。
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