over the RICE
















リョーマが手塚に肉じゃがを後馳走になったその1週間後。
青学テニス部では、朝から夕方迄の一日練習の日が訪れていた。

練習も折り返しの正午を迎え、部長である手塚から昼食も兼ねた休憩が告げられる。
手塚のその言葉に部員達はラケットを振る手を止め、各自持参した昼食を手に散った。

リョーマも昼食の入った包みを手に、裏庭の木陰に腰を下ろした。
その隣へ、共にやって来た手塚も腰を下ろす。

「で、何を持って来たんだ?」

包みを上機嫌に解くリョーマにの手元に手塚は視線をやる。
リョーマが解いた包みの中には、アルミ箔で包まれた物が幾つもごろごろと入っていた。
それは、よく見なれた角の丸い三角形。

「…お前、まさか」
「そう、おにぎり」
「アメリカ仕込みの物を持って来るんじゃなかったのか?」

包みの中からそれを一つ手渡されて呆れた様子で手塚はアルミ箔を剥いでいく。

「あっちで料理を覚えたとは言ったけど、オレは一言もアメリカっぽいものを持って来るなんて言ってないと思うんだけど?」
「そうだったか?」

そう言われればそんな気もしてくる。

「そうそう。っていうか、正直なところ、時間がなかったんだよね。朝起きて」
「どうせまたギリギリにでも起きたんだろう」
「オレなりには随分早い時間に起きたんだけどね」

アンタにしたら遅いかもね。
愉快そうにリョーマは笑いつつ、自らも取り出したそれのアルミ箔を剥いで行く。

「一応、鮭とかは焼いたんだけど。ねえ、どう?美味い?」

隣で手塚が食べ出したのを見計らって、期待に満ち溢れた目で訊ねれば、手塚はきちんと咀嚼して飲み込んでから口を開いた。

「…塩が多い」
「えー?こんなもんじゃない?」
「あと、握りが甘いな。すぐ崩れる」

その後も、海苔は焼き海苔の方がべたべたしなくていい、だとか、中の鮭はもう少し焼けだとか、手塚は散々に文句を垂れた。
それにリョーマが臍を曲げない訳が無くて。

「文句だけじゃなくて、なんか誉めるとこあるでしょ!?」
「悪いが、俺は食に対しては少々五月蝿いタチでな」
「そりゃ、彩菜さんの美味い御飯ばっかり食べてきたからでしょ」
「母の握り飯のが美味いな」

淡々と述べた後、手塚はまた手の中のリョーマ手製の昼食を齧り出す。
そんな手塚の横顔を眺め乍ら、リョーマはがくりと肩を落とした。

「オレに彩菜さんを越えろっていうの?…絶 対 無理だし」
「ほう、珍しいな。負けず嫌いのお前が負けを認めるとは」

愉悦気味に手塚が微笑う。

「あったりまえじゃん。あの人にはかなわないよ。彩菜さんの御飯って美味過ぎだし」

一つ大きく息を吐き出してから、リョーマももくもくと食べ始める。
食べてみると、成る程、手塚の言う通り握り方が甘かったらしく、齧るところからすぐに崩れて来る。

一通り手の中のものを食べ切ってから、リョーマは手塚をちらりと見た。
手塚は二つ目に突入している。
ぼんやりと相手を見乍ら、やっぱり食べ方とか綺麗だよな、なんて少し場違いな事を思ったりもする。

「…決めた!」
「なにがだ」

二つ目を手に取りつつ、語調を強くしてリョーマが言う。そして、それの意図する意味が判らなくて手塚は怪訝な表情でリョーマを見た。

「オレ、婿入りする」
「誰のところに」
「アンタんちに決まってんじゃん!」

そこ以外にどこがある、とばかりにリョーマ。

「嫁入りじゃなくてか?」
「オレが嫁で入っても毎日作った飯に文句たれられるのなんてゴメンだね。それならアンタが作った方がいいじゃない?自分で作る分には文句なんてないでしょ?
  それに、アンタんちに婿入りすれば彩菜さんの飯も食えるし、一石二鳥じゃない」

うん、これで決まり。
もう一度そう呟いて、リョーマは愉快そうに手に取った2つ目を食べ始める。

「新居は買わないのか?」

皮肉るでもなく揶揄かうでもなく、いつもの口調のままで手塚がそう漏らせば、途端にリョーマが噎せた。
リョーマが背を丸めて咳を繰り返すので、手塚はその背中を撫でてやる。

「冗談だ。長男だからな、家を出る訳にはいかん。3世代住宅だが我慢しろ」
「も、問題はそこなワケ?」

まだ少しばかり辛そうに涙目でリョーマが手塚を見上げた。
視線の先の恋人はいつも通りの涼し気な顔をしたままで。自分はこんなに吃驚して、気管に米粒を詰まらせて辛い思いまでしたというのに。

「どういう事だ?」
「…ううん、やっぱ何でも無い。アンタって、つくづく思ってたけど…」

リョーマの言葉に手塚が不思議そうに小首を傾げる。




「ある意味、最高にキョーアク」















over the RICE。
米の向こうに未来が見える。
…タイトルは笑っててください。はい。むしろ嗤ってやってください。
題 名 が あ ま り に 莫 迦
それを英語にすることで少しマシに見せようと必死です。
5200を踏んでくださった町田さんへ!
5115の肉じゃがと続き物となっております。
リョーマが手塚のために料理、ということでリクを頂きましたが…。
おにぎりって料理?とか呟かない、そこ!!
私が一番思ってるから!!!!(涙)
うう、相変わらずリクを受け切れてないようなそんな感がムンムンの私です。
な、なにはともあれ!5200、踏んで下さり、そしてご申告とリクをありがとうございました!!!
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