Factor was at these within
















境内へと続く石畳の階段から風は駆け上り、リョーマと手塚が腰を下ろしたままのコートへと辿り着く。
初夏の香りも濃いそれは旋を巻いて、リョーマが手にしたタオルをはたはたと揺らした。そんなリョーマの隣で、手塚は視線を泳がせ、沈痛そうな顔で結局大地に落とした。

「不二から…か?」
「う、うん…」

リョーマもまた、手塚と同じ様に砂地へと視線を下ろし、まだ頬を引き攣らせつつそう零した。

因に何を貰ったのか、と手塚がいつもの凛然さの無い声で問えば、アメ、とリョーマから端的な返事が来た。

「普通の、飴か…?」
「た、多分…。味はすごく普通だったけど…」

どうしてこう二人揃って苦しそうにぽつぽつと言葉を漏らし続けるのか。リョーマも手塚も、それを感じるけれど、また二人揃ってその原因が判るものだから、敢えて口にはしない。
一目見る限りは、春日の様に実に温厚そうな微笑みを常に湛えている手塚の同輩。天才と世に謳われ、その異名の通りにコートに実に鮮やかに舞う。

けれど、

手塚側は三年目に突入する彼との仲で、ただの優男では無いことを悟っており、リョーマ側もまた、まだ数カ月という彼との短い付き合いの中で、十分に彼の裏側を知っている。それを知らされるだけの距離に置くことを不二自身が許していた、ということがあるのだろう。
強いスリル、言い換えれば強いテニスのできる相手は、不二が人を気に入る要素のひとつ。

そんな不二という人間は、可愛らしい顔をした天使の皮をすっぽりと頭まで被った小悪魔。小悪魔、というよりは寧ろ煉獄と地獄を統治する悪魔の総大将、の方が的確だろうか。
端的に言えば、腹黒い。心の中に彼が愉しめる為の悪巧みや陰謀を常に抱えている。それが、時としてちらりと見えるのだ。それをリョーマも手塚も、実によく知っていた。

そんな相手から、駄菓子とは言えど、体内に摂取するものを貰い、食べた翌日に異常が起こる。
不意に小さな偏頭痛が起こって、手塚は項垂れた。

「…不二の、せいじゃないか…?」
「ん…。……オレも、そんな感じは薄々…してる」

どういう謂れで、どういう物質を含んだものだったのか、また、どうやって不二がそれを手に入れたのか、までは推測を巡らせはしないけれど、この時のリョーマと手塚には『不二だから』ということで、何だか全てが解決していた。
不二が聞けば、口許にだけ微笑みを湛えて、こちらを鋭く見据えてきそうな想像だけれど。

「…なら、不二に直接聞いてみるか…?」
「まあ、それが一番早いけど…口割るかな、あの人……」
「悪戯が成功した時は嬉々として手の内を語る奴だからその手の心配はいらんだろう…」

勘ぐるだけならば、手際良くはぐらかされるのだけれど。
そんな風なことを手塚は付け加えた。

変わらずに視線で大地を舐める手塚へと、ふと顔を上げて、リョーマは「たしかに」と妙に納得した顔で乾いた笑いを喉の奥から零した。

「不二以外からは物は貰ってないんだろうな?」

昨日。
視線だけを軽く起こして尋ねてきた手塚の言葉を受けて、昨日一日の追思にふと耽った。

昨日の時点では、大した変哲は無い、日常の時間。
朝に起きて、朝練へ行って、授業を受けて、放課後の部活をして、帰路。
その中で、授受したものに限定して回顧をしてみれば、一番に浮かぶのは矢張り、不二からの貰い物。普段、あの手の駄菓子を寄越してくるのは菊丸や桃城だったから、珍しい、と大きく思ったことが今も鮮烈だ。

「ああ、でも、色々もらった、かな…?結構懐かれやすいから、オレ」
「…確かに、何かとアイツらはお前によく手出しするからな」

人のものなのに、という付随する言葉は手塚の心の内だけで。けれど、眉間にはのろのろと徐ろに皺が寄った。
リョーマからその顰められた眉は、「そのせいで部活に締まりが無い」のだと怒っているように見えた事は手塚にとっては救いだっただろう。手塚の本音一つ本心一つでリョーマは容易く欣喜雀躍するのだから。それによって今の話題が大いに脱線することは火を見るよりも明らか。

「それで?」

何を誰から貰ったのか訊けば、リョーマは顔のパーツの中でも取り分け眼を引く双眸をきょろりと上に回して、左手の指を折り曲げ数え始めた。

「菊丸先輩からポッキでしょ。桃先輩からチュッパもらって。乾先輩は牛乳持って来て…しかもプロテイン入り。それはいらないって言ってはねのけたけど。河村先輩からもそういえばドロップもらった、かな?サクマの。大石先輩からもそういえば菊丸先輩からもらったっぽいチョコをヒトかけもらって―…ああ、あと、小坂田と竜崎からも部活終わりにカップケーキもらって。なんか手作りだからどーとか騒いでたような?あれは持って帰った時に親父にほとんど食われてー……あとカチローからー…」
「…いい。わかった。取り敢えず、色々貰ったらしいことは判った」
「昨日、オレにおやつをくれなかったのはアンタだけだよ」
「海堂も名前が出なかったじゃないか」
「あの人からはベンチでポカリ分けてもらった。バアさんからもそういや職員室にあったからっつって煎餅もらったかな…?」
「食べ過ぎだ」

小さい癖に、と悪態を吐けば、小さいからこそ食べないと、と引き攣った顔で返された。

「…これは、あまり不二だと断定すべきではないかな…?」

候補で言えば、手製のカップケーキの方があやしい。色々と混入できそうだ。
いや、しかし。ふと、手塚はそこで思考を止める。
いくら様々なものを混入できるとは言えど、突如として翼を生えさせるようなものはこの世にはありはしないだろう。
そう考えると、昨日何を誰から貰おうと、ひょっとすると関係ないのかもしれない。

思考の壁にふとぶち当たって、手塚は困窮して溜息を長く吐き出した。それに倣うかの様に、リョーマも小さく嘆息を空に投げる。
そよぎ続ける薫風が羽毛で覆われたリョーマの背中の翼をふわふわと揺らした。

羽ばたきこそすれ、飛べもしない、ただ重たいばかりの薄雪色をした厳い一翼。

現世では鳥類しか持ちはしないその器官を背負ったリョーマを眺めつつ手塚は他人事ながら途方に暮れた。
もういっそ、このままでいいんじゃないかと、事の全てを放棄したくなる程に。

















To be continued。
othersへ戻る
indexへ