Talking of bathtime , think this
















「なんだなんだ、今日は風呂場がやけににぎやかだなあ、おい」
「手塚君に一緒してもらってるのよ。リョーマも、どれだけ大人ぶっててもやっぱり子供なのねえ」

友達と一緒のお風呂が楽しいだなんて。
微笑を湛えて、そう零す嫁の言葉を聞き乍ら、南次郎は灰皿に煙草を押し付けた。燻る紫煙が天井へと立ち上る。

「アレはまだまだガキでしかねーよ」

がむしゃらに負けず嫌いで、常に物欲しそうな顔など、子供、以外に南次郎は例え方を知らない。
まだまだ本能のまま、自分の思うままに手に入れたいものだけを手に入れて、飽きることもせずにただただ遊び尽くす。彼の執着に最果てなどはまだ訪れたりはしないのだろう。

「そういうあなたも、まだまだ子供よ」
「…あ」
「?  どうしたの?」
「風呂…急に静かになったな」
「あら、ホント」















浴槽から立ち上る湯煙が視界の先へと流れていくのを自覚して、手塚はふと我に立ち戻った。
視界いっぱいを埋め尽くす、水滴で濡れた天井。そして温度を水蒸気に変えて次第に冷えていく背中の向こうのタイル。

それらに挟まれた空間に、リョーマの顔があることに気付く。
天井からの灯りが逆光の効果を齎して、彼の顔が酷く暗い色で縁取られていた。

そうして、手塚は己が風呂場のタイルの上で、馬乗りにリョーマに覆い被さられていることを知った。


ごくり、と、真上で何かを飲み込む音。果たして、何を嚥下したのか。
気付けば、手塚も喉を鳴らして、彼自身も知らない何かを飲み下していた。

果たして、咽喉を通っていったのはなにか。


お互い、言葉が吐き出せぬまま、降って来る沈黙。その隙間で、手塚は記憶を辿った。

リョーマから、手伝ってくれと乞われて、彼の手が届かない翼の天辺を洗ってやれば、擽ったいとあけすけな笑い声を立てられて、逃げ惑われて。
それでも、座しているリョーマと、起立している自分と、優位なのは断然手塚の方だったから、腕に物を言わせて押さえ込んでいれば、暫間は大人しくしていたものの、その後にはまた込み上げてくるらしい可笑しさのせいで身を捩り、振るって、またしても逃げられ。 あと少しだから、と宥め賺してみるものの、聞いてはくれなくて、結局また腕っぷしで押さえつけては逃げ惑われ、の鼬ごっこを繰り広げているうちに、正面を向いていたリョーマの顔がこちらを向き、じゃれつかれられた。
物の始めこそ、手塚もリョーマを引き剥がそうとしたけれど、それはいつの間にやらじゃれ返す動きに転じていて。

そして、気が付けばこちらも体のあちこちに泡を纏わり付かせ乍ら、この格好だ。

しまった、と、思ったこの時は既に後の祭りだったのだろう。
目が合った真上のリョーマの顔が少年さを逸脱し始めていた。少年の輪郭がじわり、じわりとぼやけて、その向こうにあった牡の色彩が露呈してくる様を、視力の弱まった手塚の目は捉えた。

重厚そうに、一度、そして、二度、三度と真上で瞬きが行われ、彼の上瞼と下瞼がくっ付くに従って、こちらへと顔が緩やかに下りて来る。
いけない、と思いつつも、一度は立ち戻った手塚の意識と、理性の箍は少しずつ弛んでいて。再度、手塚が現実を思い出した時には、視界は目蓋で遮断されていた。

そして、唇から唇へと、また奪われて行く自我。
スローモーションの映像の様に、それは酷く緩慢に触れられて。鼻の先に、石鹸の清潔染みた香りが広がった。
それには、確実に人工の香料も含まれているというのに、敢えて、手塚はその香りに酔った。

「ん…………。ぅ…」

酔わざるを得なかった。



迂闊に開いてしまった唇の奥で、途端に遊び始める舌先。
それをまた迂闊にも、手塚は甘んじて受け入れた。
















To be continued。

エロは途中で切った方が、遥かに書きやすい世の不思議な理。
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