Both the first experience
















キスの間中、ずっと握り締めてしまっていた手を緩々と解かれ、次第に指と指とを絡めさせられた。手塚の上で、リョーマが位置角を緩やかに返って最奥へと抉ってくる。
抉るとは謂えども、リョーマも最早、心得たもので。感度の好いところを突けば、その度に手塚の喉は幾度も反り返った。

リョーマからのキスは諄々しい。その執念深さの比較対象を手塚は持たないけれど、きっと相当にしつこいのだという気はする。
いつまでも触れ合わせて、離れることを知らない。例え、少しばかり離れたと思っても、また入射角を変えて攻め入ってくる。
リョーマが満足する頃には、その手の経験値が絶対数として低い手塚側の息は非道く弾んでしまっていた。
そして、今も、然り。

「えちぜ、ん…っ、いや………だ」
「やだ、って何が。こんなに…、」

もう溢れてきてるのに、とリョーマはシニカルな笑みで手塚の陰に触れた。その指先の感触で、また、跳ねてしまう背な。
そんな自分を律しようとするかの様に、手塚は目をきつく瞑る。長く吐息を漏らす手塚の上では、天使もどきの少年が手塚の腹上から立てられていた脚の間へと滑り降りる。

しとどに濡れた羽が太腿を舐めて行く感触に、手塚は今度は身を捩る。リョーマの皮膚とは違った、初めて味わう触覚。思わず、奥歯を噛み締めた。ぎり、とそこが音を立てる。
綻びきった顔を隠すこともせず、そんな手塚を楽し気に足下から眺め、リョーマは一層、笑みを深くしてから、意識的に背中の羽を動かしてみせた。

手塚が何に反応を見せたのか、手塚よりは幾許か余裕がまだあったリョーマは察していた。手塚が何かを堪えている顔をする時、というのは、つまりは、『悦い』のだという事は、誰よりも知っている。
そして、触れられた途端に飛び出す、手塚の嬌声。つう、と舐める様に動かしてみせれば、撥音を混ぜて、間断無く聲が漏らされた。


楽しい…。

リョーマの心に沸き上がる、そんな感情。確かに自分がしている行動からの結果なのだけれど、手も足も空いているのに、痴態を晒されるというのは初めての経験で。半端なく、興味をそそられた。

水分を多量に含んだ羽は、当然に重量を増している。動かし辛さを実感しつつも、リョーマは緩々と翼を動かした。
リョーマの背中から垂直に上り、頭よりもずっと高い位置でかくりと左右へ折れ曲がっている羽の穂先が手塚の脛から膝頭までを撫で上げる。

「…ぅ、ああ…っ」

足まで性感帯なのだろうか、リョーマがそう感じる程に、手塚は身を大層にくねらせる。キスで酔わされた体は刺激が瑣細すぎれば瑣細過ぎる程、過敏に感じ取っていた。
ぞくぞくと、リョーマの背を駆け上がってくる、いつものものとは違う恍惚感。
羽をつり上げては下ろし、脛から腿へと引き摺る様に動かしてみたり。その度に断続的に上がる手塚の声がリョーマの悦を誘った。次第に、加速していく、リョーマの羽の動き。
それに喘ぎを漏らしつつも、手塚の中へは鬱憤が溜まり始めていた。ふと開いた視線の端に嬉々としたリョーマの顔が見えたことがそれの始まりであった気がする。

「あ…っ!…………んんんっ…………ん…っ…――――い、」
「イイ?」

キラキラと輝くリョーマの目。嬉々としてまた蠢く翼。
それを、体の奥底からの力を振り絞って、ぎ、と手塚は睨んだ。立てられていた足の一方の足の裏がゆったりと持ち上げられた。

「い…………、いい加減にしろっ!この変態っ!」
「ぎゃー!」

膝を腹に付く程まで足を浮かせ、曲げて、それから思いきり蹴り出す。音も派手派手しく、繰り出された手塚の蹴りはリョーマの肩へと綺麗に決まって、リョーマは悲鳴にも似た声を上げて後ろへと尻餅を付いた。
後ろへの慣性には、背中から翼の生えたこの身では弱い。しかも、今は水分のせいで後方へと倒れ込まされる力は乾いている時よりも強い。

手で背中の重量を支えつつ、何とか身を起こしたリョーマの顔は不機嫌さで満ち満ちていた。

「…いったあ……何すんの。雰囲気ぶちこわしだし」
「な、何が雰囲気だ…!一人で勝手に楽しんでいたくせに!」
「はいはい。楽しむなら、二人で、って言いたいんでしょ?もう、やらしいんだから」
「だ、誰が…っっ!」
「勿論アンタがー。ハイハイ、始メマスヨー」

この野郎、ちょっと待て。そこに直れ、その根性叩き直してやる。と、いう様な事を言葉にならない言葉で手塚が喚いた気もするけれど、そこは都合良く、聞かないものとして。
起き上がりかけた手塚の体に再び伸しかかり、またその身を伏せさせて、さもご機嫌伺いの様な可愛らしいキスを頬や目頭、額に顳かみ、と降らせて。

そしてにこりと笑ってみせれば、何か物言いた気な手塚がこちらを見上げていた。
不平不満を漏らしたいのだろうけれど、そこはそれ。攻められると途端に何も言えなくなる手塚だった。
特に、こうしてリョーマが主導権を握っている場合は。

悔しい思いが確かにある、あるけれど、年相応な笑顔の次に、色めいた艶笑を浮かべられると、迫って来るリョーマの顔を撥ね除けられなくて、また手塚はリョーマからの口吻けを受け入れた。
胸中は複雑だけれど、リョーマのキスは特別な味がして、それにはどうしても敵わないのだ。

そうやって眉を顰めたままキスを受け入れる手塚がまたリョーマには愛しくて仕様がない。唇が触れる瞬間に、小さく笑ってしまったことは、きっと手塚は気付いていないだろう。



ち、くちり、とつい鳴ってしまう囀りは浴室内に立ちこめる水蒸気に幾度も反射して耳に届く。

「ん……、ふ…ぅ…っ、んっ」

そしてその合間に漏れる、どちらともつかない吐息と聲。
二人しかいない、谺だらけの狭い室内で五月蝿く反響した。

口腔で蜜が蕩け合って絡まり合って。自分の口内にあるからと言って、必ずしも自分のものでは最早無いだろう。
それ程に、お互いを貪って食らって、喰らい尽くして、随分と長い間そうしていた様に思う。手塚が時間を意識したのは、背に当たるタイルがひんやりと感じ取れたからだった。
体の芯は熱いのに、水滴を纏っていた体の表面ばかりは体温を確実に奪っていって。そういえば、本能のままに掻き乱していたリョーマの髪も冷えている感じがする。

不意に手塚はリョーマの肩を掴み、少しだけ力を入れて押しやった。唐突にキスを止められて、向かいでリョーマは不思議そうに表情を変えるけれど、手塚は熱を孕んだ吐息のまま、口を開いた。

「…湯冷め、するぞ」

お互いに、と続けて言えば、リョーマも気付いた様で。小さく、ああ、と漏らした。

「でも、こんなんなってるのに、あがるわけにもいかないでしょ?」

お互いに、と手塚の口振りを真似てリョーマは告げた。
ゆっくりと、指差される、息衝いているお互いの下肢。生理的なものだというのに、まざまざとその様を網膜で捉えてしまって、手塚は羞恥から顔を赤くして歪めた。

「ねえ、取り敢えず、吐き出しとこうよ。辛いでしょ?アンタも」
「……………………お前も、な」
「当たり前でしょ」

くすりと笑いを零してしまったのは、一体、どちらが先だっただろうか。



天井に貼付いた、元水蒸気の雫がひとつ、バスタブの中へと落ちた。
















To be continued。

すいません。かなりキスシーンが好きな生き物なんです。
…………わたしが。
羽プレイってSMじゃないんだからさあ……。しかし、有効的に使わないと、と思うのも本音。
もう少し、お付き合い下さいませ。

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