gasper
後孔を人差し指で穿ちつつ、この独特の音響効果のある部屋は特等に良いかもしれないと、リョーマは思った。
湯と熱で温まった手塚の肉はよく解れ始めていて、難なくリョーマの指は飲み込まれた。
それでも、痛みからではない、別の声が手塚の唇からは立ち上るけれど。
「あっ、あっ、あああ…っ!ん……っ」
狭い室内。そしてわんわんと反響させる壁に床に天井、それらに付着している水滴。
ただでさえ、こちらの身を騒がせる手塚の声がそれらによって増幅させらて耳に届き、尋ねながらもリョーマの方がぶるりと身震いを起こした。
湿った羽の穂先から、一滴、雫が垂れ落ちる。
「わざわざ………――ん、ぅ…っ、訊く、な…っ!……ああっ」
「ん…ごめん」
微笑をつい、浮かべてしまいながら、リョーマは指先を更に奥まで進めた。
そして震える、手塚の白い喉。
ひとつ、ふたつと増やした指も、すんなりどころか、寧ろ裡の肉に迎え入れられる様にして飲み込まれていく。面白いぐらいに、内側は波打っていた。
それと同調する様に、手塚の身もくねり、蠢く。その中心から生えるもうひとつの手塚自身からは一滴、また一滴と白濁の液が迫り出しては、会陰を伝っては脚の間に膝立つリョーマの膝頭を濡らした。
まだ洗い流していないリョーマの翼から香る洗髪剤の香りの隙間に混じって、少しだけ、臭いが鼻を突く。
いつからだったか、この馨香とはとても呼べない、腥い香りが性感を駆り立てる様になったのは。
潜らせていた指を少しだけ広げて、間口を更に広げる。軋みの音が鳴る代わりに、湯も乾いたタイルの上で、啼いた。
「え…ちぜ…――ん、は…はや…く」
途切れ途切れに漏れる吐息と声と。それにリョーマは困った様に、けれど笑うように顔をくしゃりと歪めた。
官能から滲んでくる生理的な涙で眼をしとどに濡らして、悪戯に蕩けた声で名前を呼ぶだなんて、反則だ。
体内の血管中をアドレナリンが走り続けて、拡張した気管が呼吸を弾ませた。
手塚とのセックスは好きだけれど、自分らしからぬ性急な自分に変貌してしまうことは苦手だ。
糸を引かせて、リョーマは指を引き抜いた。伝って流れていた白濁を辿って、その指はそのまま手塚を握り込んだ。
そして、ゆっくりと身を手塚が開いた脚の間に宛てがう。
既に痛いくらいに聳りたった物の先端が、言葉にすればつぷりというような音を立てて、孔に侵入りこんだ。
滾ったものが入り口を押し広げてきた感覚に、手塚は反射的に腰を浮かせた。それは、リョーマを裡へと導く行動以外に理由は有り得なかっただろう。
高まる期待に、目蓋は薄らと開き、挑発しているのかそれとも試しているのか、リョーマの方をゆっくりと見下げた。綺麗なカーブの顎が微細に傅いた。
だから、その眼が―――
言い募りたい思いは蓄積するけれど、それは終わった後にでも散々に言ってやるとして。
リョーマはひとつ、大きく息を吐き出してから、腰を押し進めた。十二分に解れた手塚の後孔はそれを円滑に中へと通す。
押し進む毎に、リョーマの口からは荒い息遣いと、手塚の口からは間合無く突出してくる嬌声とが毀れ出た。
入り口は容易く、中は熟れて随分と熱い癖に、奥に行く程窄まって、ぎちりとリョーマを締め付けた。その窮屈さが、堪らなかった。
リョーマの背と、それに連なる翼とが恍惚さから、引き攣る。きん、と物が凍る様にきつく。引き攣って、そして撓る。
それまでは垂直に立てていた背筋を思わず倒して、リョーマは手塚の頭を挟み、掌をタイルに着いた。
耳のすぐ傍で、手塚が零す哭き声が響いた。時間差を置いて、室内を反射し続けたものもやってくる。
手塚の最奥までがリョーマによって押し開かれた。
「ぁ、あ…―――――――っ…!」
閉じることを忘れた口。
そんな手塚の手を、貼付いて来る髪を掻き上げてからリョーマは握ってやった。随分と場慣れした彼だけれど、どうしても辛そうに眉を顰めるから。どうしても、手を繋いで、少しでも辛さを緩和してやりたくなる。
その眉間の皺が、得も言われぬ快感のせいらしいということは掴んではいるのだけれど。どうしても。
握り込んだ手が、逆に握り返してくる。その反応がまるで赤子のようだと、リョーマは腰を一度引きながら思った。
内壁を引き摺られ、そしてまた深くついてくる衝撃に、手塚は身を跳ねさせる。
そして同時に、脈打つ鼓動と連動する吐き出される欲望と。
それはリョーマが腰を打ち付ける度にピッチを上げ、ただ零れていた白濁にも勢いを増してくる。飛沫と変化してきたそれが、覆い被さるリョーマの腹部を濡らし始める。
熱い体内と全く同じ、熱く爛れそうなもの。
「………んっ…!」
「えち、ぜ……っ……!越前……っ」
襞に擦れる刺激と、締め付けられる収斂感とで、際まで高まったリョーマの動きが不意に止まり、手塚があげる僅かばかり高めの声と被さる様にして、裡で弾けた。
内臓を遡上してくる感覚に、手塚の背は撓り、リョーマに握られていないもう一方の手が支えを求めてリョーマの背に回る。
いつも掴むべき場所には、今日に限ってなにかが生えていたけれど、それでも理性を忘れた手塚はそこに爪を立てた。
「で…………――っ………る…っ」
翼が引き千切られそうな程、強く爪を立ててくる手塚に、痛みからリョーマは顔を顰める。
それでも、その痛みはリョーマの情感を煽り、二発目をリョーマは手塚の裡に放った。
それが最後まで放出されるよりも少しだけ早くに、手塚も曝ぜた。
To be continued。
本番第一幕終了。
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