振り向けば其処に
それから、手塚は大石に言われた通りにリョーマを度々見るようにしてみた。
ただ普通に、何とは無しに見ていたリョーマだったが、大石の助言のままに好意を込めて見ると、随分と手塚の中でのリョーマが変わっていった。
見ていて、手塚が発見した事。
小さい体を精いっぱいに大きく見せて大人ぶっている事。
そして、その大人ぶっている振りが自分自身では気付いていないこと。
意外とくるくると表情が変わること。
但し、どうでもいい奴にはどうでもいい表情のままだ。
菊丸や桃城などとは雑談しながらコロコロと喜怒哀楽に変化する。
年相応に無邪気に笑う時もあるし、
年不相応に相手を皮肉りバカにすることもある。
そして、自分を見ている時は何とも言えない、微妙な表情をしていること。
切なそうで辛そうな。
けれど、何かの意志を秘めている。
まだ、好きでいるのだろうか、と手塚は思ってしまう。そんな眼で見られたのなら。
ある意味手酷く断ったというのに。
傷つけてしまったと言うのに。
ああ、そうか。
ふと、そんなリョーマを思い出して手塚は気付く。
越前リョーマという男は、決して諦めず、そして貪欲な人間だったということに。
「まだ、俺が好きか?」
誰に告げるともなしに手塚は一人呟いた。
それに答えを返す者は辺りには誰も居ない。
「あとは、俺次第、か。確かにな」
自嘲気味に漏らして、深く瞳を閉じて、リョーマを思い出してみる。
あの強さに充ち溢れつつも更に上を目指すプレイスタイル。
負けず嫌いな性格。
強さを富に現している猫の様につりあがり気味で大きな瞳。
そしてその瞳に綺麗に生え揃う睫は思ったよりも長い。
キスをされたあの日に間近で見て、初めて気が付いた。
そして連鎖的にあの日のキスを思い出して、指で唇をなぞる。
ただ、触れるだけのそして繰り返されたキス。
あの時は驚いていただけだったけれど、こうして思い出すと照れか羞恥か顔が火照って来る。
キスとはいえ、同性にされた訳で。
けれど、気持ち悪いということはなくて。
むしろ、心音が早くなる。脈が烈しくなる。
恋は大人のものだと思っていたけれど、決してそれに資格や年齢などは関係ないらしく。
ただ、気持ちの問題なのだと。
こうしてリョーマを思い出して、あの日のキスに胸をときめかせている自分というものを覚えれば、自分も恋をしてもいいのではないかと手塚は気付く。
否、もうしているのかもしれない。
惹かれているのかもしれない。
否、もう落ちているのかもしれない。
寧ろ、リョーマから告白を受けるその前から。
落ちていたかもしれないのに、あの時自分に在ったつまらない価値感に囚われてリョーマの想いを断った。
その次の日にあの後彼が泣いていたと聞いて傷付いた。
あの時、彼が独りで流した涙は、悔し涙だったのか悲しくて流したの涙だったのか。
けれど、リョーマの気持ちはその涙と共に流れた訳ではないらしく。
今、彼に振り返れば着いてきてくれるのか。
着いてきて、ほしい。
振り向いてみたい。
振り向いてみようか。この想いのままに。
「まだ、俺が好きか?越前」
その名を持つ者を受け入れる為に。
振り向けば其処に。
やつがいる!
は、石黒賢。
遅れまして、すいませんでした。へこへこ
私、どこまでもこいつら運命説推奨派です。
一つ、宜しくお願いします。
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