ひとみ、いたずらに。
部活に仮入部とはいえ、入って数日、2年生と思われる(一応)先輩に絡まれて、そこへ鶴の一声、とばかりに現れた男。
手塚国光。
やけに、整った顔立ちだと思った。
モテるんだろうな、と思ったオレの考えは見事に当たりフェンスの周りでは女子が騒いでる。
キャー、手塚先輩、かっこいいー!だって。
なんで、そんな風に思えるのかな。
まあ、かっこ悪い、とは思わない。
男のオレから見てもまあ、かっこいいんだろうな、とは思える。
問題にするべきはそこじゃなくて。
そんな、フェンスの周りで喚いたって気を引ける訳はないと思うんだけど。
そもそも、恋愛ってのが無駄なんだと気付けていないよね。
と、オレは思うんだけど。
そうして声を張り上げているよりももっと、時間は有効に使うべきだよ。
それとも、他にすることないのかな、ここの女子は。
それにしても、まあ、この部長さんはモテる。
なんで、こんなにモテんのかな?
ねえ、なんで?
「え?手塚のモテる理由?ふふっ、越前君、そんなの聞いてどうする気なの?」
「いや、どうもしませんけど、何となく気になって」
不二周助。
いつも笑顔で考えてることはよくわかんない。
でも、テニスが強いのは確か。
「手塚がモテる理由ねえ。そうだね、よく聞くのはクールでかっこいいってことかな。手塚が寡黙で顔も整ってるところが女の子は好きなんじゃない?」
「ふーん。そんなもんっすか」
「多分ね。でも…」
不二先輩がふっと笑う。
表情はそんなに変わっていないんだけど、その表情はどこか和らいだ様に見える。
微妙な表情の変化に気付けるなんてオレも、だいぶこの先輩に慣れてきたってことなのかな?
「意外と優しかったりとか可愛い所なんかもあるんだよ。女の子達は知らないんだろうけど」
「へー、そうなんすか」
正直、驚き。
少しの遅刻でも走らされたり、部活中のお喋りなんかも口うるさく注意するあのお堅い人に優しさや可愛らしさねえ。
って、ほら、言ってるところから、部長がこっちに来た。
「越前、不二、無駄口を叩いてる暇が合ったら走るか?」
「やだ。ねえ、越前君」
「ッス」
部長に問われて、不二先輩がにこにことしたまま返す。
でも、走りたくない、って言って済まされるもんなの?
「俺の言い方が悪かったな。越前、不二、グランド10周だ」
やっぱりね。そんなもんだよね。
それなら最初からそう言えばいいのに。
そうして、オレと不二先輩はグランドをのろのろと走り出した。
「ねえ、不二先輩。先輩の言うあの人の優しさとか可愛らしさってどこのこと?」
結局は走らされて、オレは持ちたくもない疲れを背負わされる訳で。
こんなことするあの人のどこに不二先輩の言う様なとこがある訳?
「越前は未だ気付いてないかな。ラリーとかするとね、可愛いんだよ。時々、相手で遊ぶの。しかもばれない様にこっそりと」
「遊ぶ?」
「そう。ラケットで打つ面を考えて、いつもこっちにボールが返ってくる時にはボールのメーカー名が見える様に打ち返してみたりとかね」
「はあ、そりゃ、手の込んだお遊びで」
呆れた様なオレの顔を斜め上から見て、また不二先輩は笑う。
「多分ね、手塚もつまんないんだよ、部活」
「は?」
「いつも、ほら、見てるばっかりでしょ。それか後輩の指導とかさ。ホントは思いっきり練習したいんだよね、きっと」
「そんなもんっすかねえ」
見てて楽だとは思うけど。
でも、オレが逆の立場でもつまんないな、それ。
だって、テニスしたいし。
する為にここに来てる訳でさ。
なのに、ずーっと見てばっかりとか、そりゃたしかにつまんないかもね。
「特に、最近は相手になるような人が部内にいなかったからかな、すっごいつまんなさそうだったんだけど」
「はあ」
「どうも、君が来てから変わったみたいだよ。越前君」
「は?オレっすか?」
「最近楽しそうなんだ。部活中も」
「へえ」
全然そうは見えないけど。
漸く、10周を終えてグランドからコートへ戻る。
「部長、10周終わりました」
「そうか。練習に戻っていいぞ」
視線すらこちらに向けず、コート内の練習を見ている。
その横顔にさっきの不二先輩の言葉が横切る。
つまんないんだよ、部活。見てるばっかりだから。
ふーん、なるほどね。
ちょっと先輩の言ってることがわかったかもよ?
「ねえ、部長」
声をかければ、呆れたかの様な表情でこちらを振り返る。
「なんだ、まだ何か用か?」
「つまんなさそうだね、部活」
オレの言葉に軽く首を傾ける。
不思議そうな顔をして。
「そうか?というかだな、部活中にその発言は不謹慎だな」
「フキンシンってなに?」
「不真面目ということだ。不真面目は判るか?」
まるで表情は変わらないままだけど、眼鏡のレンズ越しのその眸に悪戯めいた光を見つける。
……楽しんでる?
ヤな人、かも。
「それなら、わかります」
「そうか。なら練習に戻れ。3番コートで桃城とラリーだ」
「ウイーッス」
帽子を目深に被り直して、部長の元から足を進める。
桃先輩がオレに気付いてこちらへ駆けて来る。
だけど、桃先輩を視線の端で捉え乍ら、オレの頭をよぎるのはさっきの部長の眼。
褐色よりももっと色が深くて…ああ、そう、鳶の羽の色みたいな。
でも、あの鳥の羽の色よりももっと淡くて透き通っていて。
取り敢えず、複雑な色。
でも、
非道く心を掻き乱されるような感じで。
そんな、妖しい色味に宿った悪戯めいた光がやけに幼く見えた。
ああ、そうだ。ちっちゃい奴が悪戯を閃いた時、ああいう眼するんだよね。
なんだ、あの人もそういう顔できるんじゃん。
かーわいいー。
あ、不二先輩、こういうこと?
あの人のこう言う所捕まえて可愛い、とかいうのか、アンタは。
なるほどね。
部活入ってちょっとは経ってるのに、今更気付くなんて、オレも…
「まだまだだね」
「越前?何がだよ。気味がわりいな、気味がわりいよ」
上から降って来た声のままに視線を上げれば、奇妙に顔を歪めた桃先輩。
「なんでもないっすよ。さ、始めまっしょか」
「ホントになんなんだ、お前。ま、いいや、手加減なしだぞ。ラリーだからって」
「それ、こっちのセリフ」
第二話。
リョーマ、手塚の可愛らしさに気付く。
不二は、相変わらず手塚が好きです。
でも、それは、上に書いた些細な可愛らしさとかじゃなくてですねー、なんだ、魂の綺麗さ?ああ、上手く言えんですが手塚の内に秘めるモノに惚れ込んでるです。
しかし、不二の一言から恋敵が出来るなどとは露とも知らずうっかり言っちゃいました。
さて、ここからリョマの恋が始まる訳です。
ってか、手塚の誕生日企画の筈なのにな。あんまり手塚出てこないのは何でだ…。
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