涙の後の茜
















「そーなんすよ、英二先輩!越前の奴がー…」

いつもの部活風景。
そんな一角から響き渡ってきた桃城と菊丸の会話が手塚の耳に入る。

「えー、それでオチビ今日部活来てないの?」
「いや、今日来てないのは委員会の当番の日らしいんですけど。長引くとかって」
「長引くって言ってもさー、いっつもなんとか部活には来てたじゃーん。やっぱ、それが原因っしょー」
「かもしんないッスね」
「菊丸、桃城、無駄口を叩いてる暇があったら1年でも見てやれ」

突如微か上から降って来た手塚の声に、菊丸と桃城が一斉に振仰ぐ。
悪戯がばれたような、気まずい様なそんな顔。

「あ、ごめーん、手塚。でもさー、聞いてよ聞いてよ。オチビがね、昨日大泣きしてたんだって!」
「越前が?」

昨日、そして、越前リョーマ、という単語に顰めていた眉間が和らぐ。
その代わりにどこか不安そうな顔色。

けれど、手塚を前にしている菊丸や桃城に無表情から微かに変化したそれが気付ける訳も無く。

「そーなの!ね。桃?」
「そうなんッスよ、部長!」

桃城が語るには、こうだ。

昨日の晩も遅くに桃城の家にリョーマの家から電話がかかってきたそうだ。

『リョーマがまだ戻ってないんだけど知らないか』

と。
いつもリョーマを送って来てくれたり時々迎えに行ったりしているせいか、リョーマの両親には桃城は仲が一番いい先輩として映っているらしい。
それ故に連絡をして来たのだろう。


その連絡を受けて、桃城はリョーマが居そうなところを隈無く巡った。
そして、人通りも少なくなった商店街の店と店の間の所謂路地裏で座り込み、膝の上に組んだ腕に顔を突っ伏しているリョーマを発見した。

『越前!』

桃城が声を張り上げて呼べば、リョーマは一度ぴくりと体を震わせゆっくりと顔を上げた。

その頬はしとどに涙が通った筋があり、いつもは強気な光を宿している眸は赤く腫れ上がっていた。

その様に驚いた桃城が二の句を次げないでいると、リョーマはまたゆっくりと立ち上がって桃城の方へ近付いて来た。

『桃先輩じゃないっすか、どうしたんスか?』
『どうしたんスかって、お前の方こそどうしたんだよ?……泣いてたのか?』

目元をぬぐってやろうと桃城はリョーマに手を伸ばすが、それが届くか届かないかというところで、リョーマは桃城の腕を払いのけた。

『何でも無いですよ』
『何でも無いって顔じゃねえぞ、まったく。ほら、チャリの後ろ乗れ。送ってってやる』

軽く自分が乗ってきた自転車の後部座席を叩いて示すと、リョーマは目元を袖で強く拭きつつ、大人しく後ろに跨がった。

リョーマが後ろに乗ったのを確認して、桃城はリョーマの家に向かってペダルを漕ぎ出した。

『なんかあったのか?』
『だから、何もないッス』
『ったく、お前って奴はよ…』



「泣いてた現場は見てませんけど、顔見りゃ一発ですよ!大泣きも大泣き」
「何があったんだろーねー!!あのオチビが泣くのでも珍しいのにさ!」
手塚の目の前では相変わらず、桃城と菊丸がはしゃいでいる。



越前が泣いていたのがそんなに面白いのだろうか。



手塚の胸が不快感で占められていく。

「菊丸、桃城、グランド30周」
「ええー!?」
「なんでっすか、部長!」
「いいから、素直に走って来い」

胸の内が顔にまで出ていたか、手塚のあまりの怒りの形相に喚き立てていた桃城と菊丸は途端に口を閉ざし、渋々といった風体でコートを出て行った。

菊丸と桃城が出て行っても手塚の胸中は落ち着かない。
寧ろ、澱みが増々増えて行く。

いたい

と思った。

「手塚」
「…大石」

いつの間にそこに居たのか、大石が手塚の隣に立っていた。

「職権乱用は良くないな」
「……」

どう説明したものか判らなくて黙る手塚を見遣って、大石が小さく溜息を吐いた。

「昨日、何かあったんだろ?いつもきっちり書いてある部誌が書いてなかったし。
  それが、桃と英二を走らせているのが関係してるんだろ?」
「大石…お前は…」

本当にどこまで知っているんだ。
今度は手塚が小さく溜息を吐く番だ。

思えば、大石はいつもこうだ、と手塚は思う。

自分が何も言わなくても、いや、自分だけではなく、誰であってもその言葉の裏、行動の裏まで確実に読んでいる。
データで何もかも知っている乾よりも寧ろ的確に。

乾の様に用意周到にデータを集めなくても、判っているのだ。
そして、そんな大石だからこそ頼りにしているし、これも手塚だけではなく青学テニス部員は誰しも、そして学内の教師陣すらも大石を頼りにしている。

「何となくね、判っちゃうんだよね。性格なんだろうな。そのせいですっかり胃が痛い毎日だけどね」

そう言って眉尻を下げて苦笑する大石につられた様に手塚も頬を緩める。

「お互い苦労するな。…大石、部活後に時間はあるか?」
「ああ、大丈夫だよ。オレなんかで解決できることかな?」
「ああ、適役だ。恐らく」

空は、もうまもなく茜が混じる頃。




































涙の後の茜。
フラレ後のリョマさんと手塚さん。
大石はー…贔屓キャラです。割と筆頭に。
いい男ですよね、大石。ある意味らぶい。
モエはせんが、らぶい。
桃とエージがすっかり厭味キャラに。全国の桃とエージファンの方、すいません。
わ、わたし、二人とも嫌いじゃないですよ!?ホントに。
愛故の出演です。
青学らぶ、ですから!信じて!!!(必死)
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